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復刻版 正太郎日誌  ファイア博士の遺産 アーカイブ

2006年07月22日

復刻版 正太郎日誌  ファイア博士の遺産

198X年 パガオニア国立科学アカデミーの正面玄関にアカデミー専用車が横付けされ三人の男たちが降り立つ、
金田正太郎(30)敷島博士(62)アカデミー主任研究員ジェフアンダーソン(33)正太郎と敷島、ガラス張りのアカデミー本館を見上げている、

正太郎の声 「まさに青天の霹靂とでもいうべきか、あのビッグファイア博士から鉄人の改造計画に知能回路の技術を提供したいという申し出があった、もうあの事件から二十年の歳月が流れている、どのような心境の変化だろうか、その真意を推し量ることができない、ファイア博士は大規模な騒乱罪と殺人罪、その他複数の罪で起訴され終身刑の宣告を受けている、服役後十年余りを経過した頃、その類まれなる科学知識と創造力を評価され服役囚の立場にありながら勤労奉仕という名目で科学アカデミーのロボット工学の研究班の一員に名を連ねいくつかの功績を上げていると聞いた、高齢でもあり模範囚ということもあって近く仮釈放も検討されているらしい」

アンダーソン 「お疲れ様でした、どうぞこちらに」
       アンダーソンの先導でよく磨かれた玄関ロビーからエレベーターホールへ、途中何人もの関係者とすれ違う、
       ガラス張りの円筒形エレベーターで昇っていく三人、

正太郎の声 「旧友や恩人に再会するわけではない、正直どんな顔をしていいのか迷っている、恨みがましい態度を取られるのではないか、あるいは恩着せがましい高慢な態度を・・そんな不安が緊張とともに膨らんでくる」

科学アカデミー、7階 ロボット工学研究班 開発チーム分室
アンダーソン 「この部屋です、どうぞ」
       (三人が中へ、アンダーソン、入り口に背を向けて立っているファイア博士に向かって)
アンダーソン 「ファイア博士、お二人をお連れしました」
       (その声にふり返るビッグファイア博士(68)その顔には二十年の歳月が深く刻まれている、ゆっくりとした歩調で正太郎たちに近づいてくる、正太郎、ファイア博士の風貌の変化に立ち尽くしている)

 ファイア  「君は・・正太郎君かね?」
  正太郎  「はい、お久しぶりです」
 ファイア  「なんと・・あの少年がもうこんなに・・いくつになったね?」
  正太郎  「はい・・ちょうど三十になりました」
       (あまりにまじまじと見られるのでつい目を伏せてしまう)
 ファイア  「三十・・そうか、フフ、そりゃそうじゃ、かく言うワシも見ての通りじゃ、今日はよう来てくれた」
  正太郎  「はい・・」
  敷島   「(一歩前に出て) お初にお目にかかります、敷島です」
 ファイア  「おお・・あなたが、」
  敷島   「このたびはまことに有意義な申し出を頂きまして・・」
 ファイア  「うん・・まあどうぞ、おかけなさい」(一同、ソファに座る)
 ファイア  「長旅でさぞお疲れでしょうな?」
  敷島   「いえ・・」
 ファイア  「本来ならワシが日本まで出向くところじゃが囚人の身の上ゆえご容赦ください」
  正太郎  「はあ・・」(何と答えればいいか)
 ファイア  「フフ、正太郎君、さぞ不審に思っておるじゃろうな、なにせ昔が昔だ、何で今頃になってとな・・」
  正太郎  「正直申しまして・・お気持ちを伺いたいと思っています」
 ファイア  「ワシが未だに君や鉄人を恨んでおると思われても仕方がない、確かに自分のしたことを棚に上げて恨みもした、自分の身の不運を呪った、恨み、嘆き・・それに疲れ果てるとどうしようもない程の絶望感にみまわれた、そして次は虚脱感じゃ、自分にはもう何もない、生きる意味も値打ちもないと自らの手で命を絶とうと考えたこともある・・」
  正太郎  「・・・・・・・・・」
 ファイア  「まるで生ける屍のような生活を何年か過ごしておった・・・そんなある日ここのアカデミーの一人の科学者が新型ロボットの設計についてワシの意見が聞きたいとわざわざ刑務所まで訪ねて来たんじゃ、こんな罪人のワシに相談を持ちかけてくるなどとずいぶん変わり者じゃと思うたが彼は科学者としてのワシを高く評価してくれていたんじゃ、彼の相談に乗っていて気がついた、こんなワシにも残されている確かなものがまだあることを・・長年積み重ねてきた研究と実績、それを思うとことこの分野に於いてはいささかの自信と発展の可能性が残されておると感じた」
  正太郎  「・・・・・・・・・」
 ファイア  「久方ぶりに生気を取り戻したような気分じゃった、ワシに相談したことがいい結果に繋がったらしく彼はその後も度々ワシに会いにくるようになった、気さくで愉快な男じゃった、トーマスアンダーソンというてな、このジェフの親父さんじゃ」
  正太郎  「・・そうだったんですか」
アンダーソン 「親父はものにこだわらない風変わりな人間でしてね、ファイア博士の才能を埋もらせておくのは勿体無いとこのアカデミーの一員にすることを強く主張したんです」
  正太郎  「へえ・・」
アンダーソン 「当然局内に反対の声もあったんですが結局親父の強引さに押し切られる格好で開発チームの一員に加えることができたんですよ」
 ファイア  「最初の三年ほどは刑務所に居ながらにして電話で相談に応じたりレポートを提出したりという形で参加しとったんじゃがいくつかの実績を上げたことと刑務所内で行儀よくしとったのが認められてな、こうしてアカデミーへ出向させてもらえるようになった、アカデミーに来て制服に袖を通し、現場で仕事ができるようになった時は本当に嬉しかった、まっとうな人間になれたような気がしてな・・それでも周りのワシを見る白い眼はどうしても気になったがジェフの親父さんのトーマスがいつもワシと一緒にいて何かとかばってくれたよ、トーマスはワシの恩人であり友人だったんじゃよ」
   敷島  「そのトーマスさんという方は今もこちらに?」
 ファイア  「フフフ、それがのう、どういう訳だか宇宙ロケットに興味を持ち始めてのう、おととしから航空局に移動したんじゃよ」
アンダーソン 「まあ、その代わりに僕がここに配属になったというわけで・・」
   敷島  「なるほど」
 ファイア  「ここに出入りするようになってからもう十年近い、ワシが真人間になったかといえばそれは定かではないが、もうあの頃のような野心はないことだけは確かじゃ、歳も歳じゃしそんな覇気はない、今はただ自分の才能を活かして世のために役立つものを残せたら・・そして少しでも罪滅ぼしができればと・・そんな思いで毎日を過ごしております」   (つづく)  

2006年07月23日

復刻版 正太郎日誌  ファイア博士の遺産2

 敷島  「博士のいくつかの功績が認められて仮釈放も検討されていると伺いました」
 ファイア  「この企画を通したことが大きく働いたようじゃがね、ただ決してそれが目的でこの話を持ち出したわけではない、純粋に科学者としての目で見てのことじゃ、敷島さん、あなたも科学者として鉄人という素晴らしいロボットを作り上げたことに当然誇りをお持ちでしょう?」
 敷島  「はい、自分で言うのも何ですが、苦労した甲斐があったと思っております」

 ファイア  「さよう、その達成感が科学者としての自分に自信と誇りを与えてくれる、ワシもそうじゃった、ファイア2世、3世を完成させた時の喜びは今も忘れられん、間違った使い方をしてしもうたがこれだけは自信を持って言える、ファイア2世も3世も決して鉄人にひけを取るようなロボットではなかったと・・断じて負け惜しみで言うておるのではない、厳然とした事実じゃ」

  正太郎  「それは・・本当にそう思います」

 ファイア  「その事実がワシを支えてくれたんじゃ、何年かの歳月を経て恨みを乗り越えた時、ワシはようやく鉄人を科学者としての純粋な目で見ることができるようになった、そしてワシなりに関わってみたいと思った、単にお詫びという意味だけでなくワシなら鉄人の性能を数段向上させられるという自信もあった、自惚れではないつもりじゃが・・敷島さん」

   敷島  「はい、」
 ファイア  「すでに原案はお渡ししてあるが・・どう評価されたかな?」
   敷島  「あのシステムを鉄人に転用できれば今よりはるかに高度な自動操縦が可能になります、実は私も同じ課題に取り組んできましたができませんでした、博士の原案に目を通した時、何かこう、目からウロコが落ちた思いです、もっと正直に申しますと科学者としていささか嫉妬すら感じたほどです」

 ファイア  「フフフ、あなたにそうまで言われると光栄を通り越してくすぐったいわい」
   敷島  「厳然たる事実ですよ」
 ファイア  「ありがとう、はは、こういう形であんた達に仕返しする分には誰からも非難は浴びんね」
   敷島  「はあ・・(苦笑)」
 ファイア  「ワシも自信があったんでこの企画を政府に通したところ、この国はあんた方と鉄人に恩義があるんでな、積極的に動いてくれたよ」
  正太郎  「パガオニア大使自ら研究所に出向いて頂きました」
 ファイア  「そうかね」
  正太郎  「外務省からも特によろしくと・・」
 ファイア  「うん、」
   敷島  「政府間の思惑など関係なく素晴らしい企画ですよ」
 ファイア  「うむ、さて本題に入るとするか、これがワシの考案したシステムの詳細図じゃ、目を通してくだされ」
   敷島  「拝見します(しばらく図面に見入って頷いたり首をかしげたりをくり返す) うん・・うん・・これは?・・・そうか、」
 ファイア  「どうじゃな?」
   敷島  「はい、ええと・・(自分のカバンからファイルを取り出し) これが現在の鉄人の駆動システムなのですが・・」
 ファイア  「ほう・・」(顔を近づけ見入る)
   敷島  「この図面を見る限りではここと・・ここと・・それからここの部分はすぐにでも転用が可能です」
 ファイア  「うむ、じゃがこの集積回路は・・」
   敷島  「はい、明らかに容量不足です、バッテリーの方は大丈夫だと思いますが、」
 ファイア  「ふむ、リチウム電池を使っておるんじゃな・・」
   敷島  「はい、しかしこの制御装置はかなり手を入れませんと・・」
 難しい専門用語が二人の間で飛び交い、正太郎はついていけなくなり、しだいに手持ち無沙汰になってきた、アンダーソンがその様子に気づき・・

アンダーソン 「あの、よろしければ金田さんにアカデミー内をご案内して差し上げようと思うのですが?」
   敷島  「ああ、うん、そうだね、まだだいぶかかりそうだから正太郎君、お願いするといい」
  正太郎  「はい、それではよろしくお願いします」
      (一礼しアンダーソンと二人で部屋を出て廊下を歩く)
  正太郎  「アンダーソンさん、助かりました、声をかけて頂かなかったらあと二時間くらいああしていないといけませんでしたよ(笑)」
アンダーソン 「ハハハ、科学者同士の話って本当に長引くんだよね、要点だけ話してりゃあそうでもないのに何かを開発した時の苦労話やら参考文献の話やら、次はこんなこともやってみたい・・あんなことも試してみたいとかさ・・」

  正太郎  「はは・・それ、すごくよくわかります」
アンダーソン 「じゃあ敷島さんも?」
  正太郎  「ご多分に漏れずというやつで・・」
アンダーソン 「僕はそんなレベルにはまだまだだな・・」  (つづく) 

2006年07月24日

復刻版 正太郎日誌  ファイア博士の遺産3

二人はエレベーターで1階 展示ルームへ、 さまざまな試作品が並んでいる、アンダーソンと正太郎、その一つの前に立ち止まる

アンダーソン 「これがファイア博士の最新作だよ」
      体長5メートルほどの人間型ロボット、一見したところかつてのファイア2世を髣髴させるが体型はかなりスリムな感じで腕に各種のアタッチメントを装着できる仕組みになっている、胸に『F-4』と刻まれている、

  正太郎  「これは・・?」
アンダーソン 「土木作業用ロボットF-4、仲間内じゃあ冗談めかしてファイア4世なんて呼んでるよ」
  正太郎  「ファイア4世?」
アンダーソン 「こいつ一台で基礎工事の掘削と鉄筋の組み立て、コンクリートの打ち込みなんかをほとんどやってのけるんだ、つい最近この裏に新しい研究棟が完成したんだけどこのF-4が基礎工事のほとんどをこなしたんでコストが30%ほど浮いた」

  正太郎  「へえ・・」
アンダーソン 「やっぱりファイア博士の技術力は本物だよ」
  正太郎  「そうですねえ、」
アンダーソン 「デザインにしても博士が自分で考案したんだけど何となく昔作ったファイア2世をベースにしてるようだ、でもファイア2世みたいに人を威圧するような形じゃない、顔の造りもぐっと上品になってるだろう?」

  正太郎  「ええ、そう思います」
アンダーソン 「僕はね、これは博士自身が変わったっていう一つの証拠だと思ってる」
  正太郎  「それは作者の人格が形になって現れるということですね?」
アンダーソン 「そう、僕が以前の部署にいた時期を含めて博士と仕事をするようになってもう六年になるけど実に気のいいじいさんだと思ってる、時々我がまま言って困らせるけどそいつは科学者特有の気質だからしょうがない、二十年前にあんな大それたことやらかした人だなんてちょっと思えないよ」

  正太郎  「・・そうでしたか」
アンダーソン 「金田さん、人間って変われる生き物なんだね?」
  正太郎  「ええ・・」
アンダーソン 「ずっとまわり道をしてしまったけれど・・」
  正太郎  「・・・・・・・・・」
アンダーソン 「僕が神様ならもう許してあげるんだけどな(苦笑)」
  正太郎  「日本の言葉にこんなのがあります」
アンダーソン 「うん、」
  正太郎  「終わりよければすべて良し」
アンダーソン 「・・終わりよければ・・か」
  正太郎  「はい、」

パガオニア科学アカデミー近くのホテル、正太郎がローブ姿でバスルームを出る、
  正太郎  「う~~っ、さっぱりした~」
      敷島博士はホテルに入っても図面とファイルに釘付けとなっている、
  正太郎  「まだやってるんですか?もう6時間くらいぶっ通しですよ」
   敷島  「ああ・・そんなに?」
  正太郎  「そうですよう、」
   敷島  「そう言われたら、疲れたなあ」
  正太郎  「言われないとわかんないんですか?」
   敷島  「ああ・・こんなにのめり込んだのは久しぶりだよ」(首をぐるぐる回す)
  正太郎  「まあ、それだけ価値があるってことはわかりますけど・・」
   敷島  「価値もあるが、こりゃあ予算を食うよ、年間の開発費が半分以上ふっ飛ぶ・・」
  正太郎  「うわ~、それ痛いですねえ」(顔をしかめる)
   敷島  「じゃがこの開発はやらねばならん」
  正太郎  「ええ、まあとにかくそれくらいにしてひとっ風呂浴びてくださいよ」
   敷島  「そうじゃな・・そうするか(ネクタイを緩めながらバスルームを覗くと)おう、おう・・やっぱりホテルのバスルームってのは小さいなあ」
  正太郎  「バスタブはやめてシャワーにしたらどうです?」
   敷島  「いやあ・・シャワーなんかじゃ風呂に入った気がせんよ・・それにしても、なあ正太郎君、」
  正太郎  「何ですか?」
   敷島  「この街に展望大浴場のあるホテルはないのかねえ?」
  正太郎  「温泉旅館じゃないんだから(苦笑)」

帰国途中の飛行機の中、敷島博士はシートを倒し小さないびきをかいている、正太郎は窓の外の雲海をぼんやりと眺めている、

正太郎の声 「敷島博士とビッグファイア博士は三日間にわたって鉄人の駆動システムの変更とその諸問題について協議し合った、僕はといえばアカデミーの主催するいくつかのセレモニーに出席したりこの国のマスコミの取材に応じたりと親善大使のような役割を務めて帰国の途についた、帰ったら改造計画を実行に移すための雑多な仕事や手続きが待ち受けている、大塚の親父さんに予算の無理も聞いて貰わなければならない、なにしろ鉄人の維持、管理費は警察庁を窓口にして国からの援助で賄われているのだ」   (つづく)  

2006年07月25日

復刻版 正太郎日誌  ファイア博士の遺産4

東京 世田谷 大塚邸
純和風の住宅、決して高級住宅という印象ではないが庭はよく手入れされており、正太郎と大塚は縁側に並んで腰掛け鉄人改造の見積もりに目を通している、

  大塚  「う~ん・・正太郎君、かかるもんじゃなあ」
 正太郎  「まあ、どれひとつ取ったってオーダーメイドなんで・・」
  大塚  「君、ボラれたりしとらんだろうなあ?」
 正太郎  「またそんなこと言う、これでも一生懸命コストダウンしたんですよ」
  大塚  「う~ん、まあ幸い財政状況はさほどひっ迫という感じでもないようじゃ、昨今は土地も株も ぐんぐん上がっておる、税収も悪くはなさそうじゃ」 (いわゆるバブルの時代である)
 正太郎  「それに外務省もけっこう後押ししてくれてますし・・」
  大塚  「はは・・スタンドプレーじゃよ、選挙が近いじゃろ?こういう美談めいた話を成立させて大衆のウケを
       狙うという与党の思惑があるんじゃ」

 正太郎  「まあ、なんにせよこっちにはありがたい追い風ですよ」
  大塚  「うむ・・まあ、しかしあのファイア博士がのう」
 正太郎  「二十年という歳月があの人を変えたんですねえ、」
  大塚  「芸は身を助けると言うが結局その才能が博士を救ったんじゃな」
 正太郎  「それが身を滅ぼす諸刃の剣でもあったわけですが・・・」
  大塚  「教訓とせねばならんのう」
 正太郎  「そうですね」
  大塚  「まあ博士のためにも何とかこいつが通るように働きかけてみよう、しかし金額が金額じゃ、楽なこっちゃないがな」
 正太郎  「そこは親父さんの力でなんとか・・」
  大塚  「うん、じゃがひとつ条件がある」
 正太郎  「何ですか?」
  大塚  「ワシの知り合いの娘さんで今年25になるいい娘がおってな、いい相手をと頼まれておるんじゃが・・どうじゃろうなあ・・ひとつ?」
 正太郎  「あっ!汚ねえ」

鉄人改造計画の正式決定が下ってから三ヵ月後、敷島研究所 改造ドッグ
外装をすべて取り外され骨組みと内部機関だけになった鉄人が敷島博士の指示の元、手、足、指の関節が複雑な動きを見せている、

  敷島  「だめじゃ、こんなのろい動きでは・・」
 所員A  「油圧を調整して見ましょうか?」
  敷島  「いやあ、そんなもんじゃ追っつかん、骨組みだけでこの動きじゃ、外装を付けたらもっと鈍くなる、ギアシステムごと交換せんと話にならん」
  所員A 「はあ・・」(いささかうんざりという表情)
  敷島  「電圧の方はどうじゃ?」
  所員B 「はい、もう許容範囲ぎりぎりです」
  敷島  「う~ん・・どこか削らんといかんな、ようし、次の動きじゃ、始めてくれ」
  所員B 「パターンB6、稼動します」 (再び複雑な動きをいくつか見せる鉄人の骨格 )

鉄人の改造が着手されてから二ヵ月後、パガオニアではビッグファイア博士の仮釈放が正式に決定となった、二十年に及ぶ服役生活に
一応の終止符が打たれたのだ、トーマスとジェフのアンダーソン親子はファイア博士を自宅に招き仮釈放を祝うささやかな祝宴を催した、

 トーマス  「何はともかく乾杯だ、おめでとうビッグ」
  ジェフ  「おめでとうございます」
 ファイア  「ありがとう」
 トーマス  「・・本当に長かったなあ」
 ファイア  「うむ」
 トーマス  「少しやつれたように見えるが・・体調でも悪いのか?」
 ファイア  「この頃少しな・・まあ歳も歳じゃし、」
 トーマス  「やっと自由の身に大きく近づいたんだ、大事にしろよ、お互いまだボケちゃおらんのだし、まだまだ第一線で頑張らんとな、」
 ファイア  「航空局の方の仕事はどうじゃ?」
 トーマス  「実験用の小型ロケットをしょっちゅう飛ばして遊んどるよ、天気のいい日に青い空にどこまでも飛んでいくロケットを見るのは気分がいいもんじゃぞ、」
 ファイア  「念願じゃったシャトル計画への参加はできそうか?」
 トーマス  「うむ、あきらめた訳じゃないがワシのような年寄りにはなかなかチャンスが巡ってこんでのう・・」
  ジェフ  「だいたい欲張り過ぎなんだよその歳で・・」
 トーマス  「やりたいんだからしょうがない」
 ファイア  「フフフ、あんたもいつまでも若いのう」
 トーマス  「気持ちだけはのう」
  ジェフ  「ねえ、父さん」(にこにこしている)
 トーマス  「うん?」
  ジェフ  「黙ってたけどもうひとつ嬉しいニュースがあるんだ」
 トーマス  「嬉しいニュース?・・何だそれは?」
  ジェフ  「ファイア博士の作業用ロボット「F-4」がセントラルロボット工業の目にとまってね、自社のブランドとして販売したいと契約を申し込んできたんだ、契約金として博士に2万5千ドルが支払われることになった」
 トーマス  「なんと!あのF-4が売れたのか!なんじゃコイツ、なぜゆうべワシが帰って来た時に言わんかった?」
  ジェフ  「フフ、やっぱり演出上この場で話した方がいいかなって・・」
 トーマス  「いやあめでたい、そりゃあ二重にめでたい!それだけの金があれば当分食うには困らん、よかったなあビッグ」
 ファイア  「二十年かかってようやく「ファイア4世」が世に認められたというわけじゃ、金のことはともかくワシの作品だと承知の上で契約を申し込んでくれた、それがワシには何よりも嬉しかった」
 トーマス  「真に優れた技術はどんな偏見をも乗り越えるものじゃ」
 ファイア  「うむ、」
 トーマス  「やはりお前さんは紛れもない天才なんじゃ、こんな才能を授けてくれた神に感謝しなければなあ、」
 ファイア  「フフ、ところが神もなあ、そうそう甘やかしてばかりもおられんようで実はよくない知らせもあってな・・」
  ジェフ  「よくない知らせですって?」
 トーマス  「何だ・・そのよくない知らせとは?」  (つづく) 

2006年07月26日

復刻版 正太郎日誌  ファイア博士の遺産5

正太郎の声 「理論上はほとんど完璧であったが実際に製作に入ってみると様々な不都合や細かいトラブルが発生した、調整、調整の連続で気の滅入るような日々を過ごした、さしもの敷島さんも鉄人の知能回路導入には無理があるのではないかと弱音を漏らすこともあったが持ち前の粘り腰を発揮し、問題をひとつひとつクリアしていき当初の予定より二ヶ月遅れでようやく一応の完成を見た、ファイア博士との接見の日より八ヶ月が経過していた、新緑の季節、研究所前の街路樹の若葉が風に揺れている」

敷島研究所 オフィイス
 正太郎  「ファイア博士が日本へ?」
  敷島  「うん、さっき外務省から連絡があった」
 正太郎  「でも博士はまだ・・」
  敷島  「うん、特別な恩赦で仮釈放にはなれたが本来渡航は許されん身だ、だが日本とパガオニア両国の話し合いで実験に立ち会うという名目で特別に許可されたそうだよ」
 正太郎  「そうですかあ、それは何よりですねえ」
  敷島  「この半年間の苦労の成果を見てもらうことができる、いや、ワシも嬉しい」
 正太郎  「いつ来られるんですか?」
  敷島  「急に決まった話なんでね、今月の25日、実験の前日じゃ」
 正太郎  「そうですか、それで・・日本での滞在先は?」
  敷島  「初日は大使館に泊まってもらうがね、それ以降はワシが特別に手配させてもらったよ」
 正太郎  「へえ、どこです?」
  敷島  「うん、展望大浴場のあるホテルだ」
 正太郎  「それって・・自分の趣味で決めてません?(苦笑)」

5月26日、房総半島、二子浦海岸 改造を終えた鉄人が立っている、少し離れた場所に仮説テントの本部席が設けられ実験計測用の機材やモニターが数台置かれている、来賓として警察庁高官、政府関係者、報道関係者などが席についている、
松林の海岸通を黒塗りの大使館の車が向かってくる、実験会場へと到着し、ファイア博士が大使館員に付き添われて降り立ちゆっくりと歩いてくる、
八ヶ月前に接見した時よりもかなり痩せた印象がある、正太郎と敷島博士が歩み寄る、

  敷島  「博士、ご無沙汰でした、いや、よくおいで頂きました」
ファイア  「フフ、お国の厚意に甘えさせていただきましたわい」
 正太郎  「見てください、博士の協力で生まれ変わった鉄人です」
ファイア  「おお・・こいつだけはちっとも変わっておらん」
  敷島  「実際に手をつけてみると難題だらけでしたが何とかここまでこぎつけました」
ファイア  「いや、よく努力なされた、転用にあたり思った以上に仕組みが複雑になってしまったのでさぞご苦労されたでしょうな」
  敷島  「予定より二ヶ月も遅れてしまいましたが、いい勉強になったと思っております」
ファイア  「うん、今日は成果のほどをじっくりと見せてもらいましょう」
 正太郎  「さあどうぞ、お席の方へ」
     (ファイア博士をはじめすべての参列者が席につく)
 正太郎  「博士・・そろそろ?」
  敷島  「うん」 (本部席の前に進み出て一礼)

  敷島  「それでは只今から新しく知能回路システムを導入した鉄人の遠隔自動操縦実験を行います、内容を説明しますとこの海岸の沖合い8キロの地点に沈没した貨物船が横たわっております、その船倉に目標物、今回は軽トラックを用意しています、
       鉄人の知能回路には船の位置、船体の構造、侵入経路と目標物の形状とその位置を覚えこませてあります、船内には決められた侵入口から入り、目標である軽トラックを抱えて海上へと浮上する、ここまでの一連の行動を鉄人が独自に行う訳です、出動してから海面浮上までの所要時間は20分以内を目標にしております、海中の鉄人の動きはお近くのモニターをご覧下さい・・・それでは実験を開始いたします」

      敷島博士が各研究員に向かって手を高く差し上げ開始の合図をする、
 研究員Å 「各計測装置始動!水中班スタンバイ」
  敷島  「では、正太郎君」
 正太郎  「はい、さあ鉄人、うまいことやってくれよ!」
     リモコンのスイッチが入れられる、鉄人が腕を高く差し上げ「バンワオーーッ」と二度咆哮を上げる、ロケットエンジンに点火、轟音とともに弾かれるように上空へ、高度二百メートルで水平飛行に移行、時速300キロの速度で目標地点へおよそ3分で到達、急降下から海面にダイブした、

 潜水班  「鉄人の着水音を確認しました、エンジン音がしだいに大きく聞こえます、もう間もなく視界に入るものと・・・あっ、見えました!肉眼で確認しました、映像を送ります」
 地上班  「こちらのモニターに映像を受信しました、よく見えます、そもまま動きを追ってください」
 潜水班  「了解しました」

鉄人が沈没船の右舷に両足を着底、侵入経路の右舷の裂け目に向かって歩を進めていく・・
正太郎の声 「見事に鉄人は船内の目標物を探し当て、それを抱えて海上に浮上した、所要時間は17分と30秒足らず、成功と呼んで差し支えなかった」

二子浦海岸に実験を終えた鉄人が立っている、参列者のほとんどが海上をあとにしている、撤収作業をしている研究員たち、みんな表情は明るい、鉄人の足元に敷島、正太郎、ファイア博士が立っている、

ファイア  「いや、見事じゃった、完璧と言ってよかろう」
  敷島  「今日のデータを持ち帰って分析すればシステムの微調整を施してもっと時間短縮が可能になります」
ファイア  「うむ、」
  敷島  「今後もいろんな状況を設定した実験をくり返して調整を重ねながら知能回路の精度を高めていきたいと思います」
ファイア  「そうじゃね、その調整作業は同じ知能回路を使っておってもそのロボットごとに微妙に違うものじゃ、徐々に馴染ませていくしかないんじゃ」
  敷島  「はい、」
ファイア  「フフフ・・これでようやっと鉄人にもワシの命が宿ったわい」
 正太郎  「さっき鉄人が生まれ変わったと言いましたが本当にそれを実感しました、まるで鉄人に命が宿って自分の意志で動いているような・・」
ファイア  「ファイア2世も3世もそんな感じじゃった、もっと時間をかけていろんなことを覚えさせ調整を
くり返していたらどんなに素晴らしい働きをしておったことだろう・・・それを見られなかったのが残念じゃよ」

  敷島  「博士、鉄人がいますよ、もう鉄人はあなたの作品でもあるんですから・・」
 正太郎  「そうですよ、今後半年から一年にかけてシステムをピークに持っていくつもりですからこれからも調整について意見を聞かせてください」
ファイア  「そうして差し上げたいがあいにくワシにはもう時間が残されておらんでな・・」
  敷島  「それはまた・・どうして?」
ファイア  「去年の暮れから体調が思わしゅうなくての、春先にちゃんと診てもらったところ、すい臓にガンができておるそうじゃ」
 正太郎  「そんな・・」
ファイア  「もう一部肺にも転移しておるらしい、医者が言うにはもってあと半年じゃそうな・・」
  敷島  「・・・・・・・・」
ファイア  「今も言うたがワシの生ある内にこうして鉄人にワシの命を宿すことができた、しかもありがたいことにこの目で見ることもできた、科学者として本当に満足しておる、この期に及んでこれ以上何か求めるのは贅沢というものじゃろう」

  敷島  「何と申し上げていいか・・言葉もありません」
ファイア  「なに、この歳まで生きられれば決して早死にというわけでもない・・そうじゃ、正太郎君」
 正太郎  「は、はい」
ファイア  「ジェフから聞いたよ、日本に「終わり良ければすべて良し」という言葉があると・・ワシはこの数ヶ月この言葉を噛み締めておる」
 正太郎  「・・・・・・・・」
ファイア  「ワシはすべて良しと言えるほどいい終わり方ができたのだろうかとな・・」
 正太郎  「博士の知能回路を導入できたことでこれから鉄人はもっと素晴らしい活躍をしてくれるでしょう、その功績はビッグファイア博士のものでもあると思います」
ファイア  「うん・・」
 正太郎  「胸を張っていただいていいと思います、僕たちがきっとそうします」
ファイア  「ありがとう・・いいたむけの言葉をもらった」
 正太郎  「・・・・・・・・」
ファイア  「さて、今日の実験は成功を見たようじゃし・・では敷島さん、参りましょうか」
  敷島  「はあ・・あのう(何処へ?)」
ファイア  「展望大浴場とやらへ」
  敷島  「ああ・・はい(苦笑)」

正太郎の声 「実験の日から四ヵ月後、ビッグファイア博士はパガオニアで静かに息を引き取った、博士の遺した知能回路の技術は次世代の鉄人にも受け継がれていく、博士に深い感謝の念を送るとともに博士の冥福を心から祈る」
                 正太郎日誌 ファイア博士の遺産 (完)

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