「渡る世間は敷島ばかり事件」バンワオ-と猫猫宮至高のコラボ-27
東京湾の入り口付近にある第三海保「通称まだら岩」では、海上自衛隊の一個中隊が上陸してパラボラアンテナを設置したり作戦本部のテントを組み立てたりして、今回の演習を展開するための準備をしていた。
「凄い装備ですね、この戦艦。」
まだら岩を望む位置に停泊した「旗艦あさかぜ」の甲板を案内されながら、正太郎はすっかり感心して言った。
「いえいえ、正太郎君。君の鉄人に較べたら、やはり船は船ですよ。なにせ水がなければ何の役にも立ちませんからな。」
艦長の山岸大佐はそう言って戦艦の隣のタグボートに立っている鉄人を頼もしそうに見た。
「これはすばらしい兵器ですよ、正太郎君。どんな国が襲ってきても鉄人さえいれば大丈夫。彼は我々の守り神ですよ。」
正太郎はちょっと照れたように顔を赤らめながら、きっぱりと言った。
「ええ、鉄人は武器を持っては居ませんが、その分馬力はあります。何が来たって鉄人の体当たりで止めて見せますよ。」
その時である。
「はーっはっはっ。相変わらず威勢がいいね、正太郎君。しかも、体当たりとは、いつまで経っても芸の無い戦い方だ。」
正太郎と山岸大佐が甲板よりもはるか上方の声のする方を見上げてみると、黒いコートに黒いソフト帽の男が黒い円盤に乗ってぽっかりと浮かんでいた。
「怪しい奴。だれだ、キサマは!」
正太郎はさっと背広の内側に手を入れて、愛用の拳銃を取りだした。山岸大佐も部下に機関銃を構えさせている。
その銃口は怪人の心臓の辺りにぴたりと向けられ、発射の合図を待っていた。
だが、その怪人は余裕綽々で高笑いした。
「はっはっは、君に私が撃ち落とせるものかね。やってみたまえよ。」
「なにを~!」
正太郎は思わず拳銃を立て続けに発射し、怪人の胴体に三発ほどぶち込んだ。
だが、確かに当たっているはずの弾丸は、ちんっという乾いた音を立てて、跳ね返った。
「なんだ?」
山岸大佐も驚いて双眼鏡を目に当てる。
すると大佐はびっくりして叫んだ。
「なんてアヤシイ男だ!」
「ちょっとみせて下さい。」
正太郎は大佐から双眼鏡を受け取ると、急いでその怪人を見た。
「あっ、なんだあいつ。アレはロボットだ。ロボットですよ」
「なんだって?」
「だって白い覆面を被っていますよ。あれでロボットの顔を隠しているに違いありません。
それに銃弾を食らっても平気でいるなんて、絶対にただの人間じゃないです。」
「だが、覆面は戦時中のけがで被っている人もまだまだいるし、撃たれても平気な事に関してだって 今は防弾チョッキだってあるんだよ。」
「だって、彼はあんなに遠距離から僕らを挑発したじゃないですか。
普通は弾が反れる事だってあるんですからあんなに気軽に撃ってみろ、なんて言えませんよ。
もし、防弾チョッキ以外の部分に当た可能性だってあるわけですからね。
それに、さっきなにか弾が金属に当たった様な音がしましたよ。」
「その音は確かに音はわしも聞いた。だが、それだけで相手がロボットだってきめつけるのもなあ。」
正太郎はこの山岸大佐の優柔不断さにいらいらして、思わず鉄人の操縦機を取り上げた。
「まただめだよ、正太郎君。作戦開始まで待ってくれないか。」
山岸大佐が慌てて止めるが、正太郎はすでにスイッチを入れたあとだった。
「そんなんじゃ、とても有事に対応出来ませんよ、大佐。戦争中ならいざ知らず、現代はスピード社会なんですからね。」
正太郎はそう言いながら、すでに鉄人動かし始めていた。
ごごごごごぉー
鉄人のロケットが発火し、どんどんその推力を増す。
それにつれてタグボートの甲板の船員達は慌てて避難し、鉄人が今まさに飛び立とうとする瞬間、
ぐらり
と大きくタグボートが傾いた。
「なんだ?」
隣の駆逐艦の正太郎と山岸大佐も船の手すりから思わず身を乗り出した。
鉄人を載せたタグボートはゆっくりと大きく左右に揺れ、その間に船員達は全て海にとびこんだが、不思議なことにその水深はほんの1mしか無いかのようにみな泳ぐことをすっかり忘れている。
そして、目の前で起こって居ることをただ呆然と見つめていた。
船上の鉄人すでにタグボートの甲板から2,3mも浮き上がってはいたが、何かに阻まれてそれ以上は浮上できないらしい。
よく見ればその右足を何かの腕がしっかりと掴み、海中へと引きづり込もうとしている。
「十字結社か!?」
正太郎はロケットの推力を最大にしてその腕を振りきろうとした。
が、相手もがっちりと掴んでいるようで、どうにもこうにも動きが取れない。
その間も、タグボートは徐々にその腕の有る方へと傾いていく。
「た、大変だ。鉄人が沈む!」
山岸大佐がそう叫んだ時、
「正太郎く~ん。」
駆逐艦の甲板に敷島博士が現れた。言うまでもなくこの敷島はバ敷島である。
「あ、博士。よかった、来てくださって。」
心からバ敷島の姿を見て喜んでいる様子の正太郎を見て、またまたバ敷島は感動に打ち震える。
ああ、これだよこれ、少年探偵と言えば紅顔の美少年、しかも下ぶくれ風味、のなんと素敵なことか。
バンワオー世界の正太郎君は、もうすっかり育ってガラが悪くて、半ズボンだって履いたら気持ち悪いだけだ。
声変わりした正太郎君なんて、金輪際絶対に要るものか!
バ敷島は端から見ると意味の無いガッツポーズをして、その後正太郎の頭に鉄人を置いて、私に任せなさい、と言った。
「なにせ、あの鉄人は私が作ったんだからねえ。オリジナルの鉄人を超えたオリジナルの鉄人だよ。ほんとに。」
ちよっと有頂天に成って悦に入る様は、なんだか妙にオバカ度の際だった感があるが、それでも彼の鉄人はこの世界で最強であることに代わりはない。
「どれ、貸してご覧。こんな時には流れに逆らわず自然に流すのがいいんだよ。」
そう言ってバ敷島は正太郎から操縦機を取り上げると、鉄人のロケットを切ってしまった。
たちまち、大きな水しぶきを上げて海面に落下する鉄人。
それに引きずられてその怪しい手も一緒に海中に沈む。
「は、博士。鉄人は大丈夫なんですか。」
心配そうな正太郎をよそに、バ敷島はがちゃがちゃ闇雲に操縦機のハンドルを動かし、水中で鉄人をめちゃくちゃに動かした。
なんだが、元の敷島博士とあんまり変わらなくなってきたなぁ
正太郎がそう思っていると、すっかりその存在を忘れられていた上空の怪人が再びしゃべり出した。
「こらこら、そんな風に鉄人を乱暴に扱ってはいかんよ、君たち。」
「これは僕の鉄人だ。しかも、リニューアルして史上最強の鉄人なんだから、あんたがそんなこと心配する必要は無いよ。」
バ敷島が謎の白覆面にそう怒鳴った時、いきなり海の一点がぐるぐると渦を巻いて、その中央に鉄人の頭部が浮上してきた。
「ほらみろ、私のやり方に間違いは無いんだ。いちいち海中をみなくたって、誰も私の操縦にかないはしないのさ。」
そう言って高笑いするバ敷島に対して、怪人はにんまり笑ってマントの下から操縦機を取り出した。
「やや、そ、それは」
「ふふ、さて、どうするね。」
そう言って白覆面は自分の操縦機のレバーをぐるぐると動かした。
すると、なんということか!
水面から半身だけ現れれていた鉄人は、この怪人の操縦どおりくるくるくると右に三回回転して見せたのだった。(つづく)
