スタジオではCM撮影班が手馴れた手つきでてきぱきとセットを片付けている、
大塚 「どうじゃね二人とも?撮影を終えた気分は?」
敷島 「どうと言われてもねえ、なんかよくわからないうちに終わってしまいましたね」
正太郎 「ホント、そんな感じです」
大塚 「さっきの映像が全国に流れるわけですからな、いやワシのフィギアが出なくてよかったですよ、もし出ていたらワシまでCMに引っぱり出されるところだった」
正太郎 「太田さんって・・人を丸め込めるのが上手な人ですねえ」
大塚 「そうじゃね、『鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス』というタイプの奴じゃよ、今回は美空はるみをエサに敷島さんを陥落させよった」
敷島 「はは・・見事にやられてしまいました」
大塚 「しかし敷島さん、美空はるみともうちょっとゆっくり話ができるかと思っとりましたが残念でしたなあ」
敷島 「フフ、ひょっとしたら一緒に食事でもできるかなと期待とかしてたんですけどね、まあしかたないでしょう、それはまた次の機会に・・」
大塚 「そうですな・・また次の機会にでも」
( その次の機会は永遠に訪れることはない )
ふと大塚は撮影用のカメラに興味を示し近づいて行った、物珍しそうに右から左からなめ回すように見ている、
大塚 「ふ~ん、ゴツイもんじゃなあ」
正太郎 「署長さんも趣味で8ミリをよく撮ってますよね」
大塚 「うん、まあこれに比べりゃオモチャみたいなもんじゃが・・」
監督 「カメラがお好きなんですか?」
大塚 「ああ、どうも・・つい珍しくてね、この中にビデオテープが納まっとるんじゃね?」
監督 「ええ、今アメリカの放送局でも使ってる最新のカメラです」
大塚 「さぞ高いんじゃろうねえ」
監督 「そうですねえ、200万は下りません」
大塚 「ヒュ~(口笛)」
監督 「技術の進歩で映像はどんどん鮮明になっていますよ」
大塚 「いいなあ、こういうカメラで撮ってみたいなあ」
監督 「よかったら撮ってみますか?」
大塚 「・・いいのかね?」
監督 「ええ、順調に撮影が終了したんでまだカセットには10分以上テープが残ってるんです、よろしかったらどうぞ」
大塚 「それじゃあ・・ちょっとやらせてもらおうかな」
監督 「ファインダーはここです、わかりますね?こうやって肩に担ぐようにして・・撮影のON,OFFはこのボタンです、ズームインとアウトはここを回せばできますから、撮った映像はこの再生ボタンを押せばファインダーから見ることができます」
大塚 「ふむふむ、こうやって・・ここを回すとズームか、おう!こりゃあ敏感に反応するなあ」
( 大塚はまずカメラを正太郎に向ける )
大塚 「(ファインダーを覗きながら) お~い、正太郎君」
正太郎 「ハハハ、」( カメラに向って手を振る )
大塚 「なんか普通に撮ってもおもしろくないのう、おっ!」
ファインダーから眼を離して肉眼でスタジオの片隅を見る、間仕切りで細かく仕切られた一角に衣装や小物が雑然と置いてあるスペースを見つけた、
大塚 「おう、そこにいろいろ置いてあるじゃないか」
正太郎 「そこって・・どこ?」
大塚 「ほら、そこの間仕切りで仕切られたいちばん右じゃよ」
( 三人が近づいて覗きこむ )
正太郎 「へえ、いろいろ小物とか衣装があるなあ、フフ・・つけヒゲにカツラもいっぱいだ」
大塚 「監督さん、ここに置いてある物じゃが・・さわっちゃいかんのかな?」
監督 「いえ、もう古い物ばかりですし、近々廃棄する予定ですからどうぞご自由に」
大塚 「フフフ、じゃあ正太郎君、どれか衣装をつけてみなさい」
正太郎 「ええ~、僕がつけるのう?でも大人用ばっかりだからサイズがなあ・・」
大塚 「そこに小さいのがあるじゃないか」
正太郎 「これ何だろう?カツラとセットになってるけど・・カツラのてっぺんに何で日の丸の旗が?ああ、そうかわかった!これ、「おそ松くん」に出てくるハタ坊だあ!」
大塚 「ハタ坊って・・あの「ハタ坊だジョーっ」て言う奴だな?」
正太郎 「あれ、署長さん知ってるの?」
大塚 「はは、ワシだってこう見えてもけっこうマンガを読んどるんじゃよ、こりゃあいい、正太郎君、そのハタ坊の衣装とカツラをつけてみなさい、ほれほれ、早く!」
正太郎 「フフ、もうしょうがないなあ」
( ハタ坊のよれよれの服と日の丸の旗が一本突き立っているカツラをかぶる )
正太郎 「どう、これで?」
大塚 「わははは、なかなか似合うね、でもイマイチハタ坊らしくないなあ」
正太郎 「(鏡を見て) え~と、そうか、両方のほっぺたを赤くして、それと鼻水もつけないとな」
敷島 「正太郎君、ここに頬紅があるよ、これ使ったら?」
正太郎 「目ざとく見つけますねえ・・ようし、こうなったらどうにでもなれだ!」
( 両方の頬に紅を塗って赤くする )
大塚 「うははは、だいぶそれらしくなったじゃないか、あと・・鼻水になるような物はないかな?」
正太郎 「ええと・・そうだ、このメンソレータムなら青っ鼻に見えるでしょ?」
大塚 「うん、そりゃ名案だ」
頬紅とメンソレータムをつけてハタ坊が完成した、目をトロ~ンとさせて・・・
正太郎 「僕~ハタ坊だジョ~」
大塚 「わははは!うまいうまい!」 ( 悦に入ってビデオカメラを回している )
監督 「あはははは!」
敷島 「ははは、そのトロ~ンとした目と喋り方がいいよねえ」
大塚 「正太郎君、さっきのCM,そのハタ坊でやったらどうなるね?」
正太郎 「僕~、正太郎だジョ~、みんな~僕のフィギアを買ってくんないと僕泣いちゃうジョ~~」
大塚 「わははは!こりゃ傑作じゃ!」
敷島 「ははは、なかなか芸達者だねえ」
正太郎 「敷島さんも何かやってくださいよ」
敷島 「えっ私?いや、私はいいよ」
正太郎 「ダメダメ!僕ばっかりズルいですよう」
敷島 「何をやれっていうんだね?」
正太郎 「そうだ!僕がハタ坊やったから「おそ松くん」つながりでイヤミやってくださいよ」
敷島 「イヤミって・・あのシェーッっていう?」
正太郎 「そうそう、イヤミだったらそのスーツのままでイケるし・・あとはつけヒゲとカツラだな」
( そう言ってそれっぽいヒゲとカツラを探し始める )
敷島 「おいおい・・」
正太郎 「あっ!このヒゲなんかそれっぽい、ちょっとつけてみて・・・ダメ!ほらほらじっとして・・」
大塚 「うははは!イヤミのヒゲじゃあ、博士、メガネは取らんといかんですよ」
敷島 「やれやれ・・」 ( メガネを外しケースに収める )
正太郎 「カツラはええと・・うん、これだな、博士これつけて」
敷島 「ええと・・こうかね?」
正太郎 「あはははは!」 ( 指さして笑う )
大塚 「う~ん、これに出っ歯をつければ完璧なんじゃが・・」
敷島 「勘弁してくださいよ、それにそんな物ありませんよ」
監督 「出っ歯のつけ歯ならありますよ」
正太郎 「えっ、あるんですか?」
監督 「そこの下から二番目の引き出しを開けてみてください、その中の黒っぽいケースの中に・・」
正太郎 「(言われた引き出しをあける) このケースですね?・・あっ!これこれ!これピッタリ」
敷島 「ちぇっ、そんな物まであるなんて・・」
正太郎 「ほらほら博士 ( 強引に口に持っていく )」
敷島 「ちょ、ちょっと待ちなさい!一度よく洗ってから」
正太郎 「大丈夫ですって、後で口をゆすげばいいじゃないですか、ほらほら、」
敷島 「ええい、もう」 ( カパッと出っ歯の入れ歯を装着する )
正太郎 「あははは!イヤミだイヤミだ!」
大塚 「わははは!不思議と違和感ありませんな」 (カメラを回している)
敷島 「ええいもう、どうにでもなれ!」 (つづく)
