正太郎の声 「その週末の土曜日、僕たちは赤坂にある関東テレビに赴いた、用もないのに大塚の親父さんも野次馬根性丸出しでついて来た、僕としてはどうにでもなれという気持ちだったが敷島さんは美空はるみに会えるというので大きな花束を抱えてかなり舞い上がっていた」
テレビ局の人間に案内されて一行は「歌のゴールデンショー」の収録が行われる℃スタジオ前までやって来た、一行を待ち受ける太田社長、
太田 「やあ、どうもどうも、お待ちしておりました、アレ?なんだ大塚、お前も来たのか?」
大塚 「いいじゃないか来たって、そう邪険にするな」
太田 「まあいいけどさ、ちょうど今歌番組のリハーサルが終わりましてね、20分ほど小休止といったところです、中は雑然としとりますが、まあどうぞお入りください」
(太田に促されスタジオに入る三人)
大塚 「ほう、テレビのスタジオというのはこういう風になっとるんかい」
正太郎 「天井が高いんですねえ、すごい数のライトだなあ」
敷島 「ステージのセットが何とも派手だねえ」
太田 「フフ、でも裏側から見るとひどいもんです」
敷島 「あっ!あそこにいるのは歌手の森ひろしと五木進一じゃないですか!」
太田 「ええ今回のゲストはあの二人と、そしてトリとして女王美空はるみが歌うわけです」
敷島 「あ、あの・・はるみさんは?」(キョロキョロ)
太田 「ええ、最初に音合わせをしましてね、それが終わって控え室で一服しておりますが、もうそろそろ顔を出すんじゃないかと・・・・あっ、噂をすればです、来ましたよ」
演歌の女王美空はるみがきらびやかな衣装を身にまとい何人もの付き人を従えてスタジオに入ってきた、
大塚 「おおっ、美空はるみじゃあ!」
正太郎 「へえ~貫禄あるなあ」
敷島 「こ、こんな近くで見られるなんて」( 心拍数がハネ上がる )
太田 「やあ、はるみちゃん、こっちこっち」(手招く)
美空 「あら、社長、おはようございます」 (この世界ではたとえ夜でも『おはよう』なのだ)
敷島 「わっ来る!美空はるみが来る!歩いて来るよ、歩いて!」
大塚 「そりゃ歩きもしますよ」
太田 「はるみちゃん、紹介しよう、こちらが今日のCM撮影に出演してくださる金田正太郎君と敷島博士だ」
美空 「初めまして、お噂はかねがね伺っております、美空はるみでございます」
正太郎 「初めまして、金田です」
敷島 「し・・し・・敷島です、あの、これ・・」( 大きな花束を差し出す)
美空 「まあキレイ、どうもありがとうございます」
太田 「そして彼が呼んでないけどついて来た俺の友人の大塚だ」
大塚 「よけいなこと言うな」
美空 「大塚さんはCM撮影をされませんの?」
太田 「ああうん、こいつのフィギアはね、第一弾があまりにも素晴らしいということでそれ以上のリクエストがないんだよ」
美空 「へえ、そういうもんなのかしら?」
大塚 「はあ、なんか知らんけどそういうもんらしいです」
太田 「それよりはるみちゃん、よかったねえ、念願かなってようやく敷島博士に会うことができて」
美空 「ええ、あんなすごいロボットをお作りになった敷島さんてどんな方なんだろうって前々から思ってましたの、今日お姿を拝見してよくわかりましたわ、こんな素敵な方の人形ならそりゃ売れて当然ですもの」
敷島 「い・・いや・・どうも・・参りましたな」
美空 「今日は敷島さんのために精一杯歌います、ゆっくりと楽しんでいってくださいね」
敷島 「あ・・ありがとうございます」
すっかりメロメロの敷島であったが実はこれには「裏」があった、時間を一週間ほど前に戻そう、
場所は同じくこの関東テレビのCスタジオである、本番を終えた美空はるみに太田が話しかけている、
太田 『・・そういうわけでね、来週の収録の時にこのスタジオでCMの撮影もついでにやってしまいたいんだよ』
美空 『でも二人ともシロートさんなんでしょ?引き受けてくれるんですか?』
太田 『そこなんだよねえ、いきなりCMに出てくれなんて言ったってねえ、普通は断わられちゃうよねえ~そこでさ、はるみちゃんに協力してほしいんだけどさ、聞くところによると敷島さんという人ははるみちゃんの大ファンなんだってさ、だからはるみちゃんが前々から敷島さんに会いたがってるって話をしてやったら食いつくんじゃないかと思うんだ』
美空 『アタシが?・・でも別に会いたくないし』
太田 『上辺だけでもいいからさ、会ったら一応嬉しそうに振舞ってあげてよ』
美空 『いいんですか?そんな騙すようなことして』
太田 『嘘も方便って言うじゃない、きっとはるみちゃんを目の前にしたら思いっきり舞い上がっちゃうだろうからわかりゃしないって』
まあ真実なんてこんなもんである、知らぬが仏、確かに敷島は幸福感で舞い上がっていた、そして華々しく本番が始まったのだ、
「みなさんコンバンワ!歌のゴールデンショーの時間がやって参りました、今日も豪華なゲストを迎えて素晴らしい歌をお届けします」
オープニングのあと森ひろしと五木進一が熱唱をくり広げたあとトリを飾るのは演歌の女王、美空はるみである、最前列でかぶりつくように見上げる敷島、
美空 「♪ミカンの~花びらが~~♪風~に散ったよなあ~♪」
敷島 「う~ん、いいねえ『ミカン追分』」
美空 「♪ひ~と~り酒場でえ~♪飲む酒は~~とてもとても苦い酒え~♪」
敷島 「く~~しみるねえ、『苦い酒』」
美空 「♪勝~つと思えば~♪必ず~勝てる~♪」
敷島 「いよっ、はるみちゃん!」
美空 「♪ワッショイワッショイ~~♪そ~れ、それそれ宴会だあ~♪」
敷島 「いよう!『宴会マンボ』!」
美空はるみは素晴らしい歌唱力で見事にヒットメドレーを歌いきった、「いやあ!よかったあ~!」感動のスタンディングオーベエションを送る敷島であった
( つづく )
