井上とともにおよそ半数の役員たちが一斉に手を上げた、しかし残り半数の役員は不敵な笑みのまま沈黙を守っている、
挙手した役員の数は20名中8名、過半数にわずかに届かない数だった、
井上 「ええっ!」
驚いたのは井上だけではない、挙手をした誰もがみな圧倒的な多数で敷島の解任が決まると思っていたのだ、それがまさか過半数を割るとは・・
さらに井上を驚かせたことは挙手しない役員たちの中に創業当時から苦労をともにしてきた無二の盟友とも思える気心の知れた仲間が数名いたことである、
井上 「加藤、吉川・・柴田!お前らまでどうしたっていうんだ?」
加藤 「井上、そう熱くなることはねえじゃねえか」
井上 「なんだって!」
吉川 「社長に任せとけば間違いないですって専務」
柴田 「そうそう、長い物には巻かれろってね、ハハハ」
井上 「お、お前ら・・」
犬敷島 「フフ・・残念だったな井上」
井上 「うっ・・・」
この意外な現象の種明かしをしよう、すでに犬敷島は11人の役員を自分の忠実なしもべに変身させてしまったのだ、
犬敷島はこの世界に送り込まれるのに先立ち犬犬王から特殊な能力を授けられているのだ、それは接触した相手を10分もかからずに自分の思うがまま操ることができるという「洗脳パワー」である、犬敷島はここ2~3日のうちに密かに敷島重工の役員たちと面談し次々と陥落させていったのである・・・井上は方を落として力なく座り込んだ、
犬敷島 「さあて、くだらねえ動議が否決されたところでだ、重大な発表をするからようく聞けよ」
(井上を含む正常な重役たちはいったい何を言い出すのかと不安げに敷島の顔を見つめている)
犬敷島 「鉄人を北朝鮮に売却することに決めたからよ」
正常な役員たち 「ええーーーーーっ!!!!」
犬敷島 「よおく磨いて出荷する準備しとけ、キムイルソンの奴、いい値段出してきやがってよう、大儲けだぜ、げへへへへへ・・」
もはや犬敷島の暴走を止められる者はいなかった、猫猫宮の世界は内部から確実に崩壊している、そしてその影響は犬犬王の世界に捕らわれの身になっている彼女に徐々に現れ始めていた、どうしようもないほどの「虚無感」「虚脱感」が断続的に彼女に襲いかかっている、
気を張っているつもりでもボーッと何も考えられない無意識の状態が数秒・・十数秒・・そして5分前後としだいに長くなっている、
猫猫 「・・・・・・・・・・・うっ・・・えっ?・・・・キャッ!」
どのくらい意識を失っていたのだろう? ふと気づくと息がかかるくらい近くに不乱拳博士の顔があった、猫猫宮の顔を物珍しげに覗きこんでいる、
不乱拳 「フフ、気がついたかね?今のはちょっと長かったよ、15分くらいボーーッとしていた」
猫猫 「うっ・・」
不乱拳 「ウチの敷島が上手くやってるようだね、こっちの世界じゃこれといって取り得のない男なんだが初めて役に立ったよ」
猫猫 「・・・・・・・・・・」
威勢のいいタンカを返してやりたいところだが虚脱感が抜けきらず思うように言葉が出てこない、それにいくら抵抗したところでこの状況を抜け出す手段はないのだ、このままどんどん虚脱状態が長くなっていって自分の心も精神世界も消滅してしまうことは最早確実となってきた、
不乱拳 「もう縛っておく必要もあるまい、ロープをほどいてあげるよ」
不乱拳によってロープがほどかれたが立ち上がる気力も湧いてこない、もう戦う力なんて残ってない・・・・・
私はもうじき・・隆のことを何とも思わなくなってしまうのね・・・「敷島な日々」はきっと即閉鎖ね・・・
もっといろんなふうにして膨らませてみたかったなあ・・・楽しかったなあ・・毎日がとても充実してた・・隆、好きだったよ、・・大好きだったよ・・・でも、もう終わりなのね・・・さみしいなあ・・そんなのすごくさみしいなあ・・・さみしいよ、
そんなの嫌だよ・・・嫌よ・・・・いやっ!
猫猫 「た、タカシーーーーーーーーーーーーッ!」
(魂をふり絞るような叫び声が猫猫宮から発せられた)
不乱拳 「ほう、まだそんな元気が残っていたのか?しかしまあ蝋燭が燃えつきる前の最後のゆらめきってやつだろうね」
犬犬 ( 断末魔の叫びってやつじゃないの?ホホホホ・・ )
不乱拳 「ははははは・・」
猫猫 「タ・・カ・・シ・・」
だがこの魂の叫びは決して無駄ではなかった、無限の横山精神世界を光の何百倍もの速さで飛んでいるバ春江の耳にその声は届いたのだ、
バ春江 「・・・この声は!」 (つづく)
