「な、敷島博士。わしはつね日頃から、もっとロボットにも華が必要だと思っておったんだよ。」
ここはロボットの開発を主な活動としている民間の研究施設、敷島研究所の一室である。
そこで、大塚署長は親友である敷島博士に上機嫌で話しかけていた。
「華、ですって?」
敷島研究所所長の敷島博士は、この気の良い友人である大塚署長が一体何を言い出したのか、と思い、怪訝そうにまなざしを大塚署長に投げた。
「いや、今回警視庁が本格的に警備活動用ロボットを導入したんだが、その時敷島研究所以外にも2、3社と取引があったじゃろ。
この間本署で、ほかの警察所が契約したロボットを見せてもらったんじゃがね。」
そう言って大塚署長はぐっと敷島博士の方へ見を乗り出した。
「いやはや、ほかのロボット達は華やかでいいのお。なんと、パートナーが女形のロボットなんじゃ。
戦闘用として配備することになると、どうしても勇ましい外見のモノばっかりになってしまうのは仕方ないんだが、ワシはそれがどうしても不満じゃった。
だって実際は機械だから男型でも女型でも実力は大して変わらんはずじゃないか。だったらどうして女型にしないのかってね。
だが、今までは、まあ、しかたなしとがまんしておったよ。
ほかに実例が無かったしオックスがちょっとグラマーな子猫ちゃんって感じで彩りを添えておったしね。
それも本当にちょこっとのコトだったが。
だが今回、この女型ロボットの存在が明かになった以上、わしは断固として改革を要求するぞ!なっ、敷島博士、君もそう思うだろう?」
「え、一体何を改革するんですって?」
大塚署長の鼻息の荒さになにやら不吉な予感を感じながらも敷島博士は尋ねた。
大塚署長は、待ってましたとばかり大声を張り上げた。
「オッパイミサイルじゃよ!」
「おっオッパイミサイル?!」
余りに唐突な展開に付いていけない敷島博士を置き去りにして 大塚署長は両腕を振り上げ、声高に語り出した。
「大分支部に配属された女型ロボットに付いとるのは君も知っとろーが、わしゃあれがうらやましくってなぁ。
ボイーン、ボイーンっておっぱいを発射されて見ろ、他の敵ロボットなんて、ミサイルを食らう前からノックダウンじゃ。」
敷島博士はそれを聞いて、思わず心はハワイ諸島の辺りまでもドン引いた。
「し、しかし、ロボットの胸部にそんな仕組みを抱かせるとなると、実際は体内にクレーンを入れたり、ミサイルの防爆機構を付けたりしなくてはいけないから、 ずいぶんとごつい外見になってしまいますよ。」
だがそんな敷島博士の助言もお構いなし、大塚署長の妄想、いや構想はとどまるところを知らない。
「ついでに操縦者も金髪のボインボインにしたらどうかな。
警官の制服もいいが、やっぱり白のミニワンピースにヘルメットで、爆発の有るたび純白がちらっと見えて
敵の操縦者も 思わずおお、モーレツ!なんちゃってな。ぶわっはっはっはっ!」
敷島博士はこのいかにも楽しそうな大塚署長の様子を見ていると、今までまじめにロボットの開発とその行く末に心を配ってきた自分の姿勢に疑問を感じてきたものだ。
私が未だに28号にさえミサイルを搭載するのにとまどっているというのに、かたや「おっぱいミサイル」とは・・・。
そこに追い打ちを掛けるように大塚署長のさらなる哀願が続く。
「な、じゃからワシの管轄でもそんな女型ロボットを配備したいんじゃ。
頼むよ、敷島博士。ワシの管轄の担当は君の敷島研究所じゃから、君にどうにかしてもらわんと、どうにもならんのじゃ。」
聞けば聞くほどばかばかしいこの発想をする男に日本の治安が任されていると思うと、敷島博士はだんだんと自分の心配がアホらしくなってきた。
そしてもう、なんだかどうにでもなれ と思い始めた彼は、遂に言ったものだ。
「いいでしょう、作りましょう。オッパイミサイル。」
それを聞くと大塚署長は諸手を打って飛び上がった。
「そうか、やってくれるか。じゃあ、お願いがあるんじゃが、わしはやっぱりFカップくらいのウルトラバストが・・」
再び熱弁をふるい始めた大塚署長を右手で軽く遮って敷島博士は冷静に言った。
「ですが、一つ問題があります。なにせロボット一体というのはかなりの予算が掛かるんですよ。
ですから今すぐに、というわけには・・・。」
だが、大塚署長はそれを聞くと なんだ、そんなことか、と一笑に付し、とんでもない提案を持ち出したのだ。
「じゃったら、アレがおるではないですか」
「あれ?」
「そう、27号が。あいつは今は他のロボの修理の時とか庭木の手入れの時位にしか役には立ちませんしな。
だがこうしてみると丸顔で、目鼻立ちもなかなかかわいい。ちょこっとオッパイだけ作ってやれば、なになに、りっぱなもんですわい。」
そう言って大笑いする大塚署長にたじたじになりながらも、敷島博士は研究所の片隅にさみしそうにぽつんと突っ立っている一体のロボットのシルエットを見つめた。
自分の実力の無い為に今だ完璧なロボットを完成できない自分と、その自分に作られたために一戦もできない27号。
お互いに今までの立場に甘んじては来たが、果たしてそれが自分たちにとって幸福だったのか。。
その夜、敷島博士は自宅に帰り、鏡の前で寝化粧をしている妻に向かって聞いてみた。
「ねえ、春江さん。君は女性で良かったって思うことがあるかい?」
すると妻は 何を今更、といったちょっとびっくりした顔をして見せて、ふふふと笑った。
「あらあら、何をいっているの?だって私が男だったら、あなたうれしい?」
「まさか。」
「でしょ。男と女って、つまりそう言うモノなのよ。私だって、ね。」
「あ、春江さん。いや、そんなコトするなんて・・。君っていつも積極的だぁあ。」
「そうそう、その点では、私とあなたっていう組み合わせが合えば、案外男女って関係無かったりしてね、うふふ。」
かんけい、ない、のかなぁ。。
27号、君は一体どう思う・・?
相変わらず相手主体で感覚をコントロールされながらも、敷島博士は考え続けた。
そうだ、確かに男だとか女だとか、外見についてこだわることは無いのかもしれないな。お互いが、出来ることをすれば良いんだ。
だが、それもつかの間、すぐに押し寄せる快楽の波に飲み込まれ、思考回路はすっかりどこかに行ってしまった。
ところが結局、この敷島博士の悲痛な決意にもかかわらず、27号に「ボイン」がつくことはなかったのだった。
なぜなら、改造に対して難色を示す人物がいたからである。
大塚署長にさえ、待ったをかけることのできる人物。
それは、「官房長官」であった。
長官は敷島博士と大塚署長を首相官邸に呼びつけ、「27号改造計画書」を二人の目の前に叩きつけた。
「いったい君らは27号を何だと思っておるのだ。あれはれっきとした警視庁の所属なのだぞ。
筋骨たくましい大和男児型に改造するならともかく女型、しかも、、ボイン だと?
毛唐女のまねなどして、それを我が国民が見たらいったいどう思うことだろう。
そんな姿じゃ、外国に対しても、抑止力はおろか、物笑いの種にしかならんわ。」
怒り心頭な官房長官に対して大塚署長は、敷島博士に話したと同じ内容を、しかし今度はごく冷静に説明した。
それを聞くと官房長官はやや怒りを納めたが、だが、それでも納得したといった風情ではなかった。
「しかしね、大塚君。27号の配備されておるのは、日本の警察なのだぞ。ボインなど、外国のやからが見たらいったいなんだと思うことか。
すでに婦女子の乳の大きさで敵国の優位を認めたようなものじゃないか。
いや、いかん。いくら相手の戦意を喪失させ、微笑みを持ってその戦いを終結させることが目的であっても「ボイン」はいかん。
お天道様が許しても、官房長官たるワシが許すわけにはいかんのだ。
日本国民の婦女子の名誉と、その乳しか生涯目にする機会のない男子諸君への配慮のためにもな。」
その、なんとも情けないほどに日本国民を思いやる官房長官の心意気に打たれて、大塚署長は感激と悔恨の涙を滝のように流しながら 官房長官のひざにすがって詫びを入れた。
「申し訳ありません。ワシが軽率でした。ボインなど、もう決して言いません。ちらっと見もしません。
ちょっとでもうらやましいと思ってしまったわしは、警察署長、いや、日本国民失格ですわい。」
すると官房長官もすがる大塚署長の頭をやさしくなでながら言った。
「わかってくれればいいんだ。国のトップというのは、時として苦渋の決断をせねばならないことがあるものだ。
だがもちろん、君がごく個人的にであれば、いくらボインを愛好してもかまわないし、もちろん 正規の手続きを踏みさえすれば、ちょっと位、触ってみたってかまわんのだよ。」
それを聞くと大塚署長は今度は感激と喚起の涙を再びあふれさせた。
「か、官房長官、その暖かいお言葉にこの大塚、感極まっております。」
「まあ、いいさ。時として人は、間違いを犯すものだ。
それに、戦意を喪失させる、というその戦い方、今流行中のガンジー主義にも通じるものがあるし、
ひょっとするとそれは学園闘争に明け暮れる若者たちの心を打つやも知れぬ。」
「で、では。」
期待を込めて自分を見上げる大塚署長の視線をさえぎって官房長官は ことの成り行きについていけなくてボーっと突っ立っている敷島博士に話しかけた。
「な、敷島君。」
「は、はい。長官。」
「君は27号の改造をするつもりだったらしいが、本当に大塚君の言うような効果があると思うかね。」
そのとたん大塚署長ははっとしてすがるようにまなざしで敷島博士を見たが、敷島博士はいたって真面目な顔で官房長官に語った。。
「はい、今までの28号とOXだけの戦いでは、すでに敵に攻撃パターンが読まれておりますからね。
ここいらでなにか手を打たねば我が方はいずれ大敗を期す事になるでしょう。」
この敷島博士の発言に官房長官は深く考え込んだ。
ふーむ。たしかに、鉄人と0Xはよくやっていてくれるがそろそろその攻撃パターンが敵にばれつつある。
新しいロボットを投入するも、予算の点で問題があるうえに再軍備だとなんだといろいろとうるさく国会でつつかれるしな。
選挙もあることだし今あるロボットを改造して固定費で処理できれば審議にもひっ掛からんし 案外やってみる価値はあるかもしれん。
官房長官はしばしの熟考の後、かっと目を見開いた。
「よし、やってみよう。27号は改造することにする。」
「で、ではやはりボインに・・!」
喜びいさむ大塚署長を押さえて、官房長官は言った。
「いいや、そのスタイルはあくまでも日本式にすることが条件だ。」
「に、日本式、ですか?」
「そうだよ・・・、そう、大和なでしこだ!。」
「大和なでしこ・・・?」
あまりに唐突なこの長官の発言に思わず立ちすくむ二人を尻目に、今度は長官のこの唐突に始まった妄想、いや構想への熱き語りはとどまる事を知らない。
「そうじゃ、たしかにボインは戦後の輝けるアメリカ文化の象徴だ。
だが、一見まぶしいその谷間の奥には 挟まれたら決して抜けないという恐ろしい罠が潜んでおるのだ。
これからの日本は、そんな、力ずくで押さえつけるだけの政府ではいかんのだ。 むしろ、国民自らが進んで政治の中身をのぞいてみたいと思うようでなければな。」
「はあ。で、それと大和なでしこにいったいどんな関係が・・。」
「ばか者、そんなこともわからんのかね。もういい、プランはワシがすべて立てておく。
明日中にも研究所に届けておくから、早急に対処したまえ」
「了解いたしました。」
敷島博士と大塚署長は、興奮のあまり鼻息でちょび髭をふーふーと揺らしている官房長官を置いたまま、執務室を後にした。
次の日、長官から届いた改造プランを見た二人は、その「大和なでしこぶり」に思わずのけぞった。
「ほっほんとうにこれでいいんじゃろうか。ペンキを塗るだけで、ほとんど作業らしい作業もないが。だが、これではあんまり。」
「まあ、仕方ありませんよ。これしか方法はないんだから。」
そう言って敷島博士は、いつもの通り遠い目をしたあと、黙々と作業に取りかかった。
しばらくして、全国の警察署に奇妙な噂が流れはじめた。
「東京都のある地区の警察のロボットは、新しい戦闘のスタイルを開拓した。」
「なんでも、哀愁を誘うロボットの姿で、敵の戦意をそいでいるらしい。」
それを聞く度に、それが自分たちのしでかした事だと重々承知の二人ではあったが、その場では絶対に自分たちの関与を公表する事はなく、むしろ初めて聞いた、というふりを 決まってしてしまうのだった。
なにせ、それは正気の人間だったら決して口に出来ることではなかったのだ。
余りの情けなさに。
ただ戦闘場所に立ち、その姿をさらすことで敵の操縦者の戦闘意欲を削ぐ27号のその姿とは、
両頬に直径1mの丸いピンク色の鉄板を取り付け、上半身だけを白くペイントした「女学生体操服姿=ブルマーに白シャツ」だった。
そのペイントをしたのが自分たちで、しかもそれが実は官房長官の発案=趣味だった、などとは。。。
言えない、口が裂けても言えない。自分たちの将来の為と、さらには、日本の健全な未来のためにも。。。
結局 これに懲りた大塚署長は、この後一切ロボットの事に口を出すことは無くなり、敷島博士も決して軽々しいノリでロボットの改造を了解する事は無かった。
そして改造された27号については、その後「その控えめなお色気作戦で」敵の気をそぎ数体の敵ロボットを奪取するなどある程度の効果は認められたものの、敷島博士の強固な哀願により、三ヶ月後再び塗装し直され、やっと元の姿に戻ったのである。(おしまい)
※お久しぶりです。バンワオ-さんといい、ワタクシといい、なんだか「迷作の秋」でございますわね。おほほ。
