翌朝 犬敷島を乗せた敷島重工の黒いセンチュリーは都内の高級ホテル、ヒルトンプラザへ向っていた、この日ヒルトンプラザでは敷島重工の若手社員の結婚式が執り行われることになっていた、猫敷島は自社の有望な社員の結婚式には都合がつく限り出席するようにしている、その度に新たに人生の船出を迎える新郎新婦に暖かい祝辞を送っているのだ、「企業の財産は人である」がモットーの猫敷島らしい行動である、披露宴が始まり仲人が新郎新婦の紹介をつつがなく終えると・・・
司会者 「ではご来賓の方々よりご祝辞を頂戴したいと存じます、まず新郎の勤務しております敷島重工株式会社代表取締役社長であられます敷島隆様よりご祝辞を賜りたいと存じます、敷島様、よろしくお願いいたします」
犬敷島はぶっきらぼうに立ち上がるとマイクスタンドのある場所までズカズカと歩いていく、マイクをひっつかむと新郎新婦に邪魔くさそうな視線を送る、
猫敷島ならばおだやかな笑顔とともに慈愛に満ちた眼差しを投げかけるのであるが・・・
犬敷島 「あ~、おほん!しかし田中君よ、ほんとにそんな女でいいんかい?しかし・・ブッサイクな女やのう~」
( そのひと声に場内がし~~んと凍り付いてしまった )
犬敷島 「お前ようそんなブッサイクな女と結婚しようなんて思ったな・・お前、趣味が悪いんじゃねえのか?げへへへ・・」
司会者 「あ・・あの、敷島様」
犬敷島 「なんだ?」
司会者 「ほ、本日は・・その、おめでたい席でございますので・・そのようなご発言は・・いかがなものかと・・」
犬敷島 「なんだ!ブサイクをブサイクと言って何が悪い?」
最初にブチ切れたのはやはり新婦側の親族と友人たちだった、
「いいかげんにしろ!」 「めでたい席でなんてこと言うんだ!」
「常識を知らないのか!」 「それでも社長か!」 と雪崩を切ったように非難の嵐、
犬敷島 「なんだあ?文句あんのかテメえら!」
そう言ってつかみかかっていこうとする犬敷島を関秘書があわてて後ろから羽交い絞めにする、
犬敷島 「こら!離せ、離しやがれ!」
関秘書 「しゃ、社長いけません!落ち着いてください・・おい君たち、手伝え!」
そばにいたスタッフに声をかけ4人がかりで口汚く罵り続ける犬敷島を控え室まで引っ張っていく・・
犬敷島 「おい田中!お前はクビだーーーっ!」
そのひと声を最後に犬敷島は外に連れ出された、呆然と立ち尽くす新郎、あまりのことに泣き崩れる新婦、あたふたとうろたえる仲人、
騒然となった披露宴会場、とにかく晴れの結婚式がメチャクチャにされてしまったことは間違いない、
一方こちらは都内の某文化会館、この日恵まれない子ども達を支援する財団法人「黄色い羽根募金」のセレモニーが行われている、
敷島重工はこの黄色い羽根募金に2億円もの寄付を毎年行っているのだ、その贈呈式には毎回敷島春江がプレゼンテーターとして出席していた、
司会者 「え~皆さま、今年も敷島重工株式会社様より当黄色い羽根募金にたいへん心暖まる、そして高額なご寄付の申し込みを頂戴しました、心よりお礼申し上げます、それでは寄付金の授与を執り行いたいと存じます、プレゼンテーターは敷島重工株式会社代表取締役社長、敷島隆様の奥様でいらっしゃいます敷島春江様です、皆さま暖かい拍手でお迎え下さい」
スポットライトを照らされた犬春江に場内から惜しみない拍手が送られる、例年なら猫春江がおだやかな笑顔でその拍手に答えるように軽く一礼し、セレモニー用の小道具である「2億円」と書かれた大きな小切手を持って舞台の袖から現れステージ中央の祭壇で待つ理事長に手渡すのだが・・・犬春江はぶ然とした表情でズカズカと中央の祭壇に歩み寄る、何も知らない理事長はその小切手を受け取ろうと
笑顔で両手を差し出すのだが・・その直前で犬春江は持っていた小切手をバリッと引き裂いてしまった、
理事長 「えっ?・・」
あ然とした顔の理事長に目もくれることなくマイクをひっつかむと・・・
犬春江 「オメーらにくれてやる金はにゃあ!」
(お笑いコンビ次長課長の河本のギャグ、「オメーに食わせるタンメンはにゃあ」とまったく同じしぐさをして見せる )
理事長 「はあ?」
司会者 「あの・・敷島様?・・今のは・・・何かのジョーク・・・ということで?」
犬春江 「冗談なんかじゃないわよ、何度でも言ったげるわ、オメーらにくれてやる金はにゃあ!」 (またも同じしぐさ)
理事長 「あのう・・それはどういう?」
犬春江 「どういうもこういうもないわよ、何で見ず知らずの貧乏ったれのガキに大金出さなきゃなんないのよ!」
理事長 「ご・・ご寄付頂けないのですか?」
犬春江 「これからはビタ一文出さないからね、貧乏人のガキがのたれ死にしようがどうしようが
知ったこっちゃないってのよ、キャハハハハハ・・」
ホール中に犬春江の下品な笑い声が鳴り響くと一瞬水を打ったような静寂がおとずれたあと場内から猛烈なブーイングが犬春江に浴びせられた、
犬春江 「何よう!何だってのよう!べーーだ!ベーーだ!アッカンベーーだ!アッカンベーーだ!」
最近子供でもあまりやらない幼稚な憎まれを連発する犬春江であった、とにかく敷島重工の評判が地に堕ちたことは間違いない (つづく)
