バビルの先導で五十嵐と正太郎が搭に入っていく、外と違って塔内はひんやりと涼しい、各所に警備の為のレーザーガンがコブラのように鎌首をもたげているのが見える、
正太郎 「(周囲の壁や天井を見上げて) 5千年か・・いかにもって感じですね」
五十嵐 「ところがここの中央部はその正反対という感じでね」
中央コンピュータの前に立つ一行、正太郎は部屋中を埋め尽くす近代設備の壮観さにただ圧倒されている、
正太郎 「凄いな・・しかもこの設備が5千年も前からあったなんて・・」
バビル 「現代文明もかなり追いついてきましたがまだこの搭のレベルには遠く及びません」
五十嵐 「この搭のテクノロジーや実力についてはほとんど何もわかっていない、世界が脅威に感じるのも無理からぬ話だ」
バビル 「つまり・・・そういう話なんですね?」
五十嵐 「そうだ、今回私は国連からの依頼もあってここに来ている、依頼を受けたのは二週間前だ、ずっとそれ以前から
私は君のことが気がかりで広告を出し続けてきたんだよ」
バビル 「もちろん気がついていました、でもお互いのために関係を持たないことが賢明と考えて連絡しないでいたんです、
でもこうして搭の場所が知られた以上考えを改めないといけないな」
五十嵐 「そういうことだな」
バビル 「まあとにかくどうぞ、座って楽にしてください」
五十嵐 「うむ・・おお、こりゃあ高級なソファだな、絨毯はペルシャか、」
バビル 「選ぶセンスがないんでいちばん高い物を買ったんです」
正太郎 「君は金持ちなんだな」
バビル 「フフ、どうやって金を手にしているかは言わぬが花としておきましょう」
(機械の手が下りて来てテーブルに冷たい飲み物が置かれる)
バビル 「どうぞ」
五十嵐 「ありがとう、いただくよ」(飲み物に手をつける二人)
五十嵐 「あれからどうしていたのかね?」
バビル 「しばらく世界中を見て回ってました、ここにいても情報は手にできますが世界の文化や民族のイデオロギーや宗教観というものを自分の目と耳、そして肌で感じ取ることができました」
五十嵐 「ふむ、いい勉強になったようだな」
バビル 「はい、良くも悪くもこの星の人類というものがわかったような気がします」
五十嵐 「そうか・・それで君はこの先どうしたいと考えているんだね?」
バビル 「これははっきり言っておきますが僕はヨミの真似をするつもりはありません」
正太郎 「君は世界を思いのまま動かしてみたいという野心はないのか?」
バビル 「野心というようなものはありません」
正太郎 「そう言ってくれるのは世界にとってありがたいことだが君ほどの力を持った人間がなぜそうまではっきりと野心を否定できるんだ?」
バビル 「それはヨミのしてきたことを見てきたからです」
五十嵐 「それは君の良心とか道徳観がそれを許せんということかな?」
バビル 「それもありますが世界を支配するということは実に大変なことだと思い知りました」
五十嵐 「まあ楽なことじゃないだろうが・・例えばどんなところが?」
バビル 「自分にどれほどの力があっても一人の力では限界があります、世界を手中に収めるには世界中に大勢の部下や拠点を配置しなければなりません、僕は壊して周るばっかりで作る苦労というものを考えたことがなかったんですが、よくよく考えてみるとヨミは実に巧みに組織作りをしてきたものだと感心させられました」
五十嵐 「ふむ、それは言えておるな」
バビル 「なぜあれほどたくさんの人間がヨミの元に集まったのかといえばヨミの持つ力もさることながら皆自分たちの欲望をヨミの野心に重ね合わせていたからです、それにヨミは搭の後継者にはなれませんでしたが指導者としての資質を持っていた人物でした、部下達に信頼されまた尊敬もされていた、本当に求心力のある男でした」
五十嵐 「うむ、確かに目的は感心せんがよく統率の取れた組織だったな」
バビル 「僕にはとてもそんな求心力や指導者としての器は備わっていませんからね」
正太郎 「そりゃ今はそうかも知れないがこの先君がどう変わるかわからんだろう?」
バビル 「それはそうです、やっと二十歳を過ぎたばかりですからね、ですがヨミと戦って悟ったことが他にもあります、ヨミは自分の欲望や野心もあったでしょうがこの世界を立て直すという彼なりの「理念」があったのでしょう、でもその考えは人間や世の中に対する「絶望」を起点にしたものでした、ですから破壊と流血の向こうにしかヨミの理想はなかったんです」
五十嵐 「その通りだ、我々がヨミを倒さなかったら各国の中枢に送り込まれた改造人間が世界のあちこちで戦争を始めていたことだろう」
バビル 「ええ、ですが僕は人類に絶望などしていません、確かに欠点はありますが無限の可能性があると信じています、僕に何の力もなければ信じて祈るしかありませんが僕には搭の後継者としての力が備わっています、どこの国の利益にも関わりのない純粋な力です、これをもって人類の欠点なりほころびを修繕していきたいと・・そう考えています」
正太郎 「たいへん高尚な話でけっこうだが何が人類の欠点でそれをどう修繕するかはあくまで君の独断なわけだろう?」
バビル 「まあ、そうですね」
正太郎 「名目は何であれ無茶をされてはたまらんよ」
バビル 「その辺は信じて頂くしかありません」
正太郎 「何をもって信じたらいいんだね?」
バビル 「あれっ?鉄人が好きな奴に悪い奴はいないって言ったじゃないですか?」
正太郎 「いや、それとこれとは・・」
バビル 「ご心配はわかりますが無茶をするつもりはありませんし、またその必要もないと思ってます、ちょっとしたイタズラをしてやればいいんですから」
五十嵐 「イタズラ?」
バビル 「五十嵐さん、あなたを信じてお話ししますが・・」
五十嵐 「うむ、」
バビル 「例えば僕なら好戦的な国の指導者をこっそり洗脳して平和な人間に変えてしまうことも可能です」
五十嵐 「うむ・・君ならそれくらいやってのけるだろうな」
バビル 「それに各国が秘密裏に保管している大量破壊兵器や化学兵器の存在もすべてわかっています、そいつを壊して周ったとしたら
どうです?表向きはないことになっているわけですから騒ぎ立てることもできないでしょう?」
五十嵐 「そうだな、泣き寝入りをするしかないということだ」
バビル 「それにいくつかの国が外貨を獲得するために隠れて麻薬を密売しています、その流通経路をすべてブッ壊してやりますよ」
正太郎 「そいつは素晴らしいイタズラだな」 (つづく)
