メイン | 夜の鉄影3 »

復刻版 正太郎日誌  ファイア博士の遺産

198X年 パガオニア国立科学アカデミーの正面玄関にアカデミー専用車が横付けされ三人の男たちが降り立つ、
金田正太郎(30)敷島博士(62)アカデミー主任研究員ジェフアンダーソン(33)正太郎と敷島、ガラス張りのアカデミー本館を見上げている、

正太郎の声 「まさに青天の霹靂とでもいうべきか、あのビッグファイア博士から鉄人の改造計画に知能回路の技術を提供したいという申し出があった、もうあの事件から二十年の歳月が流れている、どのような心境の変化だろうか、その真意を推し量ることができない、ファイア博士は大規模な騒乱罪と殺人罪、その他複数の罪で起訴され終身刑の宣告を受けている、服役後十年余りを経過した頃、その類まれなる科学知識と創造力を評価され服役囚の立場にありながら勤労奉仕という名目で科学アカデミーのロボット工学の研究班の一員に名を連ねいくつかの功績を上げていると聞いた、高齢でもあり模範囚ということもあって近く仮釈放も検討されているらしい」

アンダーソン 「お疲れ様でした、どうぞこちらに」
       アンダーソンの先導でよく磨かれた玄関ロビーからエレベーターホールへ、途中何人もの関係者とすれ違う、
       ガラス張りの円筒形エレベーターで昇っていく三人、

正太郎の声 「旧友や恩人に再会するわけではない、正直どんな顔をしていいのか迷っている、恨みがましい態度を取られるのではないか、あるいは恩着せがましい高慢な態度を・・そんな不安が緊張とともに膨らんでくる」

科学アカデミー、7階 ロボット工学研究班 開発チーム分室
アンダーソン 「この部屋です、どうぞ」
       (三人が中へ、アンダーソン、入り口に背を向けて立っているファイア博士に向かって)
アンダーソン 「ファイア博士、お二人をお連れしました」
       (その声にふり返るビッグファイア博士(68)その顔には二十年の歳月が深く刻まれている、ゆっくりとした歩調で正太郎たちに近づいてくる、正太郎、ファイア博士の風貌の変化に立ち尽くしている)

 ファイア  「君は・・正太郎君かね?」
  正太郎  「はい、お久しぶりです」
 ファイア  「なんと・・あの少年がもうこんなに・・いくつになったね?」
  正太郎  「はい・・ちょうど三十になりました」
       (あまりにまじまじと見られるのでつい目を伏せてしまう)
 ファイア  「三十・・そうか、フフ、そりゃそうじゃ、かく言うワシも見ての通りじゃ、今日はよう来てくれた」
  正太郎  「はい・・」
  敷島   「(一歩前に出て) お初にお目にかかります、敷島です」
 ファイア  「おお・・あなたが、」
  敷島   「このたびはまことに有意義な申し出を頂きまして・・」
 ファイア  「うん・・まあどうぞ、おかけなさい」(一同、ソファに座る)
 ファイア  「長旅でさぞお疲れでしょうな?」
  敷島   「いえ・・」
 ファイア  「本来ならワシが日本まで出向くところじゃが囚人の身の上ゆえご容赦ください」
  正太郎  「はあ・・」(何と答えればいいか)
 ファイア  「フフ、正太郎君、さぞ不審に思っておるじゃろうな、なにせ昔が昔だ、何で今頃になってとな・・」
  正太郎  「正直申しまして・・お気持ちを伺いたいと思っています」
 ファイア  「ワシが未だに君や鉄人を恨んでおると思われても仕方がない、確かに自分のしたことを棚に上げて恨みもした、自分の身の不運を呪った、恨み、嘆き・・それに疲れ果てるとどうしようもない程の絶望感にみまわれた、そして次は虚脱感じゃ、自分にはもう何もない、生きる意味も値打ちもないと自らの手で命を絶とうと考えたこともある・・」
  正太郎  「・・・・・・・・・」
 ファイア  「まるで生ける屍のような生活を何年か過ごしておった・・・そんなある日ここのアカデミーの一人の科学者が新型ロボットの設計についてワシの意見が聞きたいとわざわざ刑務所まで訪ねて来たんじゃ、こんな罪人のワシに相談を持ちかけてくるなどとずいぶん変わり者じゃと思うたが彼は科学者としてのワシを高く評価してくれていたんじゃ、彼の相談に乗っていて気がついた、こんなワシにも残されている確かなものがまだあることを・・長年積み重ねてきた研究と実績、それを思うとことこの分野に於いてはいささかの自信と発展の可能性が残されておると感じた」
  正太郎  「・・・・・・・・・」
 ファイア  「久方ぶりに生気を取り戻したような気分じゃった、ワシに相談したことがいい結果に繋がったらしく彼はその後も度々ワシに会いにくるようになった、気さくで愉快な男じゃった、トーマスアンダーソンというてな、このジェフの親父さんじゃ」
  正太郎  「・・そうだったんですか」
アンダーソン 「親父はものにこだわらない風変わりな人間でしてね、ファイア博士の才能を埋もらせておくのは勿体無いとこのアカデミーの一員にすることを強く主張したんです」
  正太郎  「へえ・・」
アンダーソン 「当然局内に反対の声もあったんですが結局親父の強引さに押し切られる格好で開発チームの一員に加えることができたんですよ」
 ファイア  「最初の三年ほどは刑務所に居ながらにして電話で相談に応じたりレポートを提出したりという形で参加しとったんじゃがいくつかの実績を上げたことと刑務所内で行儀よくしとったのが認められてな、こうしてアカデミーへ出向させてもらえるようになった、アカデミーに来て制服に袖を通し、現場で仕事ができるようになった時は本当に嬉しかった、まっとうな人間になれたような気がしてな・・それでも周りのワシを見る白い眼はどうしても気になったがジェフの親父さんのトーマスがいつもワシと一緒にいて何かとかばってくれたよ、トーマスはワシの恩人であり友人だったんじゃよ」
   敷島  「そのトーマスさんという方は今もこちらに?」
 ファイア  「フフフ、それがのう、どういう訳だか宇宙ロケットに興味を持ち始めてのう、おととしから航空局に移動したんじゃよ」
アンダーソン 「まあ、その代わりに僕がここに配属になったというわけで・・」
   敷島  「なるほど」
 ファイア  「ここに出入りするようになってからもう十年近い、ワシが真人間になったかといえばそれは定かではないが、もうあの頃のような野心はないことだけは確かじゃ、歳も歳じゃしそんな覇気はない、今はただ自分の才能を活かして世のために役立つものを残せたら・・そして少しでも罪滅ぼしができればと・・そんな思いで毎日を過ごしております」   (つづく)  

About

2006年07月22日 17:38に投稿されたエントリーのページです。

次の投稿は「夜の鉄影3」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。