東京 世田谷 大塚邸
純和風の住宅、決して高級住宅という印象ではないが庭はよく手入れされており、正太郎と大塚は縁側に並んで腰掛け鉄人改造の見積もりに目を通している、
大塚 「う~ん・・正太郎君、かかるもんじゃなあ」
正太郎 「まあ、どれひとつ取ったってオーダーメイドなんで・・」
大塚 「君、ボラれたりしとらんだろうなあ?」
正太郎 「またそんなこと言う、これでも一生懸命コストダウンしたんですよ」
大塚 「う~ん、まあ幸い財政状況はさほどひっ迫という感じでもないようじゃ、昨今は土地も株も ぐんぐん上がっておる、税収も悪くはなさそうじゃ」 (いわゆるバブルの時代である)
正太郎 「それに外務省もけっこう後押ししてくれてますし・・」
大塚 「はは・・スタンドプレーじゃよ、選挙が近いじゃろ?こういう美談めいた話を成立させて大衆のウケを
狙うという与党の思惑があるんじゃ」
正太郎 「まあ、なんにせよこっちにはありがたい追い風ですよ」
大塚 「うむ・・まあ、しかしあのファイア博士がのう」
正太郎 「二十年という歳月があの人を変えたんですねえ、」
大塚 「芸は身を助けると言うが結局その才能が博士を救ったんじゃな」
正太郎 「それが身を滅ぼす諸刃の剣でもあったわけですが・・・」
大塚 「教訓とせねばならんのう」
正太郎 「そうですね」
大塚 「まあ博士のためにも何とかこいつが通るように働きかけてみよう、しかし金額が金額じゃ、楽なこっちゃないがな」
正太郎 「そこは親父さんの力でなんとか・・」
大塚 「うん、じゃがひとつ条件がある」
正太郎 「何ですか?」
大塚 「ワシの知り合いの娘さんで今年25になるいい娘がおってな、いい相手をと頼まれておるんじゃが・・どうじゃろうなあ・・ひとつ?」
正太郎 「あっ!汚ねえ」
鉄人改造計画の正式決定が下ってから三ヵ月後、敷島研究所 改造ドッグ
外装をすべて取り外され骨組みと内部機関だけになった鉄人が敷島博士の指示の元、手、足、指の関節が複雑な動きを見せている、
敷島 「だめじゃ、こんなのろい動きでは・・」
所員A 「油圧を調整して見ましょうか?」
敷島 「いやあ、そんなもんじゃ追っつかん、骨組みだけでこの動きじゃ、外装を付けたらもっと鈍くなる、ギアシステムごと交換せんと話にならん」
所員A 「はあ・・」(いささかうんざりという表情)
敷島 「電圧の方はどうじゃ?」
所員B 「はい、もう許容範囲ぎりぎりです」
敷島 「う~ん・・どこか削らんといかんな、ようし、次の動きじゃ、始めてくれ」
所員B 「パターンB6、稼動します」 (再び複雑な動きをいくつか見せる鉄人の骨格 )
鉄人の改造が着手されてから二ヵ月後、パガオニアではビッグファイア博士の仮釈放が正式に決定となった、二十年に及ぶ服役生活に
一応の終止符が打たれたのだ、トーマスとジェフのアンダーソン親子はファイア博士を自宅に招き仮釈放を祝うささやかな祝宴を催した、
トーマス 「何はともかく乾杯だ、おめでとうビッグ」
ジェフ 「おめでとうございます」
ファイア 「ありがとう」
トーマス 「・・本当に長かったなあ」
ファイア 「うむ」
トーマス 「少しやつれたように見えるが・・体調でも悪いのか?」
ファイア 「この頃少しな・・まあ歳も歳じゃし、」
トーマス 「やっと自由の身に大きく近づいたんだ、大事にしろよ、お互いまだボケちゃおらんのだし、まだまだ第一線で頑張らんとな、」
ファイア 「航空局の方の仕事はどうじゃ?」
トーマス 「実験用の小型ロケットをしょっちゅう飛ばして遊んどるよ、天気のいい日に青い空にどこまでも飛んでいくロケットを見るのは気分がいいもんじゃぞ、」
ファイア 「念願じゃったシャトル計画への参加はできそうか?」
トーマス 「うむ、あきらめた訳じゃないがワシのような年寄りにはなかなかチャンスが巡ってこんでのう・・」
ジェフ 「だいたい欲張り過ぎなんだよその歳で・・」
トーマス 「やりたいんだからしょうがない」
ファイア 「フフフ、あんたもいつまでも若いのう」
トーマス 「気持ちだけはのう」
ジェフ 「ねえ、父さん」(にこにこしている)
トーマス 「うん?」
ジェフ 「黙ってたけどもうひとつ嬉しいニュースがあるんだ」
トーマス 「嬉しいニュース?・・何だそれは?」
ジェフ 「ファイア博士の作業用ロボット「F-4」がセントラルロボット工業の目にとまってね、自社のブランドとして販売したいと契約を申し込んできたんだ、契約金として博士に2万5千ドルが支払われることになった」
トーマス 「なんと!あのF-4が売れたのか!なんじゃコイツ、なぜゆうべワシが帰って来た時に言わんかった?」
ジェフ 「フフ、やっぱり演出上この場で話した方がいいかなって・・」
トーマス 「いやあめでたい、そりゃあ二重にめでたい!それだけの金があれば当分食うには困らん、よかったなあビッグ」
ファイア 「二十年かかってようやく「ファイア4世」が世に認められたというわけじゃ、金のことはともかくワシの作品だと承知の上で契約を申し込んでくれた、それがワシには何よりも嬉しかった」
トーマス 「真に優れた技術はどんな偏見をも乗り越えるものじゃ」
ファイア 「うむ、」
トーマス 「やはりお前さんは紛れもない天才なんじゃ、こんな才能を授けてくれた神に感謝しなければなあ、」
ファイア 「フフ、ところが神もなあ、そうそう甘やかしてばかりもおられんようで実はよくない知らせもあってな・・」
ジェフ 「よくない知らせですって?」
トーマス 「何だ・・そのよくない知らせとは?」 (つづく)
