五十嵐 「バビル2世こと山野浩一は日本でごく普通の家庭に生まれ中学まではごく普通に育った、彼の幼少時代を詳しく調べたのだが小学校時代は鉄人が大のお気に入りでね、部屋にいくつもポスターやプラモデルを飾っていたそうだ、社会見学で鉄人を実際に見た時の喜びを作文に残している」
正太郎 「まあ、年代的にはそうかも知れませんね」
五十嵐 「彼の幼少期の記憶が残されたわずかな糸口なんだ、鉄人がバベルの塔の前に現れたらさすがに彼も無関心ではいられんと思うんだ」
正太郎 「たったそれだけの理由で?」
五十嵐 「そう、取るに足らぬような希薄な根拠だ、だが他に名案が浮かばんのだ、それにもし万一の事態になった時、鉄人はなまじっかの軍隊よりよっぽど頼りになるからね」
正太郎 「搭と戦うつもりですか?」
五十嵐 「万一のことを言っただけだ、それがどういう事態なのか私にもはっきりとはわからん」
正太郎 「しかしそうは言っても搭が敵対行動に出る可能性は否定できないでしょう?」
五十嵐 「確かにそうだ、そこで鉄人の性能をフルに発揮させたいんだ、聞くところによると鉄人には知能回路が搭載されていて遠距離からの自動操縦ができるそうだね?」
正太郎 「ええ、最大で50キロ先までは自動で飛ばすことができます」
五十嵐 「バベルの塔の位置は正確にわかっている、鉄人の知能回路に位置を覚えこませてまず鉄人を単身で先行させるんだ、我々はそれより少し距離を取って後から続く、バベルの塔の周囲に吹き荒れている砂あらしは人工のあらしなんだ、そうすることで人の目から搭の存在を隠してきた、もし搭の近くに鉄人が現れたとしよう、おそらくバビルは砂あらしを止めて鉄人をじっくりと見たいと思う筈だ」
正太郎 「じゃあ砂あらしが止んだら彼は鉄人に興味を示したと思っていいわけですね?」
五十嵐 「うむ、そしてなぜ鉄人がこんなところにと不審に思うに違いない、そのタイミングを見計らっていろんな周波数で彼に呼びかけてみるつもりだ」
正太郎 「それでももし彼が拒否したり返答がなかったり、鉄人に攻撃が加えられたらどうしますか?」
五十嵐 「その時はまことに残念だがそれ以上の危険は犯せん、鉄人とともに早々に引き上げるしかないだろう、私としてはバビル2世は我々と接触する意志はないと帰ってそう報告するしかない」
正太郎 「そうですか・・」
五十嵐 「彼がそういう態度だと事態は更に深刻なものとなるが・・」
ギド 「正太郎君、下手をするとわが国が戦場になってしまう恐れがある、それだけは何としてでも避けたいのだ、それにもうわが国一国の問題ではない、世界の問題でもあるのだ」
正太郎 「はい・・」
ギド 「お祭り気分でこの国に来てくれている君には申しわけないがこういう事情だ、私からもお願いする、どうか協力してあげてほしい」
正太郎 「(ため息をつき) こんな重大な秘密を打ち明けられては断われませんね」
五十嵐 「ありがとう」
正太郎 「お話を伺って根拠はいささか希薄だとは思いますが、バビル2世に対して鉄人こそ最もふさわしい親善大使であるという気はします」
五十嵐 「うむ」
正太郎 「搭へはいつ出発するんです?」
五十嵐 「式典は明日いっぱい残っているからね、明後日の早朝出発しよう」
正太郎 「わかりました」
式典二日目、正太郎、セレモニーに参加しながらも心ここにあらずといった表情である、
正太郎の声 「二日間にわたる式典は無事終了した、それが済んだらギド国王の所有する海辺の別荘でクルージングやダイビングを思い切り楽しむつもりだったのだが・・・」 (つづく)
