由比敬介のブログ
MP3
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 SonyがヨーロッパでMP3対応の音楽プレイヤーを発売するという。
 Sonyは音楽をダウンロードして聴く際に、Atracという独自のフォーマットをサポートしてきた。これはMDウォークマンでも使用できるフォーマットだ。そもそもは手軽にコピーを取られたくないための著作権保護から発したものだ。
 音楽関連メーカーはこれまでもコピー・コントロールCDをAVEXが先陣を切って発売し、他社がそれに追随している。
 あの手この手で不法なコピーが世界中を駆けめぐる中、それを阻止しようとするのに躍起なのだ。それはCDの売り上げの低下にも原因がある。
 しかし、売れなくなった原因を一意に不法コピーに求めるのはいかがなものだろう。
 レコードが大量に流通し始めた時にはすぐにカセットテープが世間に出回り、ダビングを後押しするようにレンタルが始まった。世の趨勢にはかなわず、レンタルを違法としていたメーカーも、最終的にはレンタルも商売の場所に変えてきた。
 CDが発売され、MDが出、パソコンが一家に一台に迫る勢いで増えている現在、音楽をデジタルで聴くフォーマットは非常にたくさんある。
 CDで音楽が、LDで映像がデジタル変換され、銀色の円盤に記録できるようになった時点で、デジタル to デジタルのダビングが誰でもできる時代はすぐそこに見えていた。音に劣化が基本的にはないこのダビング方式は、レコードからカセットへのダビング以上にメーカーや著作権管理団体のストレスを増加させる仕組みだった。
 しかしちょっと待てよ。
 CDが売れなくなった原因は、実は野球の視聴率が下がった原因と似てはいないか?かつてONが活躍し、巨人がV9を達成した時代、「巨人、大鵬、卵焼き」という言葉が流行った時には、テレビがない家庭も多くあった。娯楽も少なければ、可処分所得も少なかった。どこに娯楽を求めるかという選択肢は、今のように多くなかったが、現在では非常に多岐にわたる。
 巨人戦の視聴率の低下に試合が面白くないという理由を付けるのは簡単だが、今の試合だって、昭和30年代や40年代に見ていたら熱狂しはしなかっただろうか?当時、サッカー人口がどの程度いただろう。父親が会社から帰り、カラオケをやっている家庭がどの程度あったろう?今と昔では、そもそも余暇の過ごし方が違うのだ。
 同様に音楽も、売れなくなった原因を、音楽そのものの質の低下とか、氾濫するコピー文化に負わせてしまうのはいかにも本当らしいが、そうだろうか?もちろん、全く原因がないとは言わないが、メーカーが考えるほどの比率だとは思えない。
 バブルがはじけあらゆる物の価格が下がり続けていた時も、CD、しかもビッグアーティストと言われる売れ筋のCDは価格が下がらなかった。それでも売れるからだ。それに合わせるように、邦楽のほとんどはバブル以前の価格をいまだに維持している。
 どう考えても、CD制作の原価(物理的な)は昔に比べて圧倒的に下がっているにもかかわらずだ。
 売れる物と売れない物の格差が非常に大きいのは、平成に入った以降どんどん加速してきた。音楽の趣味も多様化し、かつてに比べると輸入盤の比率も高くなっている。あらゆることに変化が起きてくる中、保護貿易のような政策ではSonyでさえ生きていけないと言うことが、今回のMP3へのSonyの妥協である。
 レンタルでこれまですませてきた人は、これからもレンタルですませるだろう。しかし、コピーコントロールという仕組みで、ダビングを阻止すれば、そういったCDのレンタルは減るに違いない。だからといって「買う」訳ではない。買うかどうかという判断はどれほどその音楽やアーティストに興味があるか、欲しているかによるだろう。
 携帯の料金や、プロバイダの料金なんて、10年前は家計に存在しなかったものだ。少なくともその分のしわ寄せがどこかへ来る。それでも尚、減った小遣いからでも買おうと思わせる音楽を売ること、ダウンロードで売るなら、当然その分製作費が浮くのだから、低価格にすること、果たして音楽業界がそんな努力をしているのだろうか?
 少なくとも私にはそうは見えない。
 今度Dioのアルバムが出るようだ。私はきっと買う。昔に比べたら、CDにかけるお金など本当に何分の一日に過ぎないが、きっと買う。
 ことほど左様に、今日の世の中は、趣味産業に努力を強要する。音楽は日常的に溢れている。テレビを付ければどこかでやっている。インターネットでも結構聴ける。
 購入し、自分の物にしたいと思っても、ではそれを何回聴くか?無駄金に思える時もあるだろう。
 それを無駄金にしない方法が必要だし、無法なコピー音楽の反乱は、ある意味そのことを制作者側に投げかけている。
 iPODが、SonyのMDウォークマンよりも売れる原因の一つには、自分の持っている音楽を、音の劣化無く大量に持ち歩けるというメリットがある。世界中のあらゆる音楽がダウンロードサイトで買えるようにでもなれば、また多少話も変わってくるかも知れないが、今の量では所詮無理だ。
 誰を相手に商売をしているのか、メーカーサイドはよく考えるべきだ。不法なコピーをする人間を対象に規制をかけていくことは、とりもなおさず、まともな消費者が、まともな使い方で楽しむことを阻害する大きな原因になっているし、そのことが、メーカー不審にも繋がる。どうせ買ってくれない無法者など無視をするくらいの度量で、より素晴らしいものをどんどん開発してくれた方が、消費者は付いてくると思うのだが。

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